
奇跡のプリマ・ドンナ -オペラ歌手・三浦環の「声」を求めて-
渡辺俊幸 作曲 / 大石みちこ 原作・脚本
「あなたは世界にたった一人しかいない、最も理想的な蝶々さんです」ジャコモ・プッチーニ
イントロダクション
世界を魅了した日本初のプリマ・ドンナ 三浦環。
明治から昭和期を「声」一つで生き抜いたその姿は、女性の自立と近代日本の象徴として今も輝き続ける。
芸術に生きた彼女の生涯が今、オペラで綴られる。

公演日時
2026年3月7日(土) 14:00 開演 (13:00 開場)
2026年3月8日(日) 14:00 開演 (13:00 開場)
- 13:30より作品解説を行います。
会場
新宿文化センター 大ホール
〒160-0022
新宿区新宿6-14-1 Tel:03-3350-1141
【東京メトロ副都心線/都営大江戸線】
東新宿駅 A3出口より徒歩5分
※東新宿駅およびイーストサイドスクエアの状況により、A3出口が使用できない場合がございます。
その場合はA2出口をご利用ください。
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【西武新宿線】
西武新宿駅 より徒歩15分
作品について
ものがたり
明治の東京。母・とわのおなかに声を忘れてきたかのように、産声を上げずに生まれた環(たまき)だったが、両親に愛され、やがて美しい歌声を持つ娘へと成長した。
第一幕
父・熊太郎は、娘の将来を良縁に託そうとしていた。しかし環は、父との不仲から離縁されたとわの姿をまのあたりにし、仕事をもち母を助けようと決心する。恩師・高木チカに歌の才能を見出され、環は東京音楽学校への進学を希望するが、熊太郎は「歌など遊びごと」と猛反対。環は熊太郎が選んだ相手と結婚することを条件に進学の機会を掴む。
校則では結婚は禁じられていた。既婚であることを隠し、環は音楽学校では、昭憲皇太后の御前演奏、奏楽堂での歌劇オルフォイスの百合姫(エウリディーチェ)役など才能を発揮する。一方、幼なじみの政太郎は密かに環への想いをつのらせていたが、内祝言を上げたことを知り愕然とする。
そんな中、夫の転勤が決まるが、環は同伴ではなく離婚を選ぶ。それは、女性でありながら歌で生きていくという強い決意の表れだった。
離婚した後、とわの家に身を寄せていた環の元に再び政太郎が現れ、かつて果たせなかった想いを告げる。熊太郎に会い「僕は音楽家の環さんを尊敬しています。芸術家は社会の華です」と、結婚を申し込むのだった。環と政太郎はドイツへの留学の夢を語り合い、政太郎は資金を得るためシンガポールへと旅立つ。
日本に残った環の前に、野心に満ちた新聞記者・安井が現れる。自らが環と政太郎を結びつけたのだと言い、環に対して不穏な圧力をかけてくる。舞台に立ち続ける環は、名声の陰で精神的に追い詰められていく。とわの機転により安井の魔の手から逃れた環を乗せた船は、政太郎の待つシンガポールへ向けて船出する。
第二幕
ロンドン。環が主役をつとめるオペラ《蝶々夫人》の舞台が開演しようとしていた。客席には、開演を前に震えている作曲家ジャコモ・プッチーニの姿があった。彼は苦悶していた。日本に行ったこともなく、これまでの作品と同様、追い詰められる女を描いてしまった。パリで上演されたいがために、原作を変えてしまった。偽りの蝶々夫人を描いてしまったのではないか、と−―
楽屋では、身支度を助けるお雪に環は、かつて安井という新聞記者から逃げて、日本から旅立ったが、いまだにに追われている気がしてならないと不安を口にする。
旅芸人として各地を旅してきたお雪は人づてに安井の行方を知っていた。環の心の曇りは消え、晴れやかな心持ちでマダム・バタフライの世界へ旅立つ。
しかし、空襲警報が鳴り響き、上演は中断。舞台を諦めきれず、逃げ遅れそうになる環を「今は生きることが大切」と、政太郎が諭し救い出す。
環と政太郎はアメリカへと渡り、プリマ・ドンナとして環は名声を高めていく。
その陰で、政太郎は「プリマ・ドンナの鞄持ち」と呼ばれるようになっていた。日本に戻り緑茶の研究に専念することを決意した政太郎は環の元を離れていく。アメリカに残り歌い続けることになった環は、政太郎の研究が認められたときには、日本に戻ってお祝いしましょう、と約束する。
環はイタリアのプッチーニ邸に招かれる。そして、オペラ《蝶々夫人》を歌う時はいつも、作曲家であるあなたへ歌を捧げているのだと、あなたは私の神なのだと語る。プッチーニは「私は弱い人間だ、神ではない」と答え、環は困惑するが、互いに二人の間には歌があることに気づき、音楽で繋がる喜びを知るのだった。
ある日、環の元に一通の電報が届く。「マサタロウシス」──政太郎の急逝であった。環は悲しみに打ちひしがれながらも、祈りを歌に変えることで、彼の魂と共に生きていく道を選ぶ。
数年後。政太郎の墓前に立つ環に世間は「死者には歌は届かない」と冷笑するが、環は彼に語りかけ、歌い続ける。
時代は戦争の只中へ。環は「私はオペラ歌手、軍歌は歌いません」と毅然とした態度を貫く。そして、アメリカ人との恋に敗れた女が自ら命を断つ、オペラ《蝶々夫人》の上演は戦争が終わるまで封印する決意を固める。疎開先の湖畔の村で、とわは病に倒れ、環は介護に明け暮れる。とわは、最期に「生まれる時に、私のおなかの中に置き忘れた声を返そう」と語り、静かに旅立つ。
環は深い悲しみの中、病に臥すが、高木チカの言葉に導かれ、再び舞台へ戻る。批評家の「三浦環はもう終わった」という声が聞こえる一方で、観客たちは「もう一度、あの歌を」と願い、時空を超えてプッチーニの幻が現れ「蝶々夫人だけが歌ではない」と励ます。
戦争が終わり、環は歩んできた歌の道を振り返る。イギリス、アメリカ、ブラジル、アルゼンチン……歌は環の人生そのものだった。「戦争は終わった。再び、世界へ、明日へ」── 環は声の一文字へ向かい、歩み始めるのだった。
文:大石みちこ