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  7. Vol.29-楠野麻衣 2

CiaOpera!

心に残る旋律、名言、美しい日本語。魅力に満ちた日本オペラ。

名言だな、と感じる言葉もたくさん出てきます。たとえば、義経を殺したあと、討ち取った義経の首を前にして男たちが語り合うシーンの中では、悪とは何ぞやという問いについて「夢見ることさえも悪であろうか」「人並な力しかない平凡な者から見れば、夢見る人間ほどの悪人はおるまい」という言葉があるのです。私のように夢ばかり見て生きている人間からすると、なるほどなぁと思わず考え込んでしまいました(笑)。これは、なかにし先生の哲学でもあるのかなと思いますし、後半に行くほどそういった哲学的な部分が多くなってくるように思います。

—なるほど、深みを感じる言葉ですね。以前頼朝役の森口賢二さんにお話をお聞きしたときも、「歴史的には功績を残した人だとけれど、それを成し遂げるために致し方なく悪になった」ということをおっしゃっていたのが印象的でした。

そうですね。結局頼朝が義経やその子、そして義高を殺してしまうのも、自分の経験から来ているのかなと思います。幼い頃に平家に生かされ、後にその平家を自分が倒した経緯があるので、敵対する勢力を生かしておいたら後々自分の身が危うくなるかもしれないと。教科書では実際に起こった出来事しか習わないけれど、そのときに彼らが何を思ったのかということが、なかにし先生の哲学とともに描かれているのが素敵だなと思います。

−今回の出演者のみなさんとは、共演されていますか?

そうですね、今までにお世話になった方も多いです。父・頼朝役として一番関わりのある森口さんとは、『ミスター・シンデレラ』でもご一緒しました。、坂口裕子さん、家田紀子さんとの共演は初めてですがそれぞれの舞台は何度も拝見しています。中井亮一さんとは『魔笛』をはじめ、藤原歌劇団の舞台で何度もご一緒していますし、泉良平さんとは今も『こうもり』の現場でご一緒しています。弁慶のイメージにぴったりですよね。それに3月3日公演で、静を歌われる沢崎さんには私が入団した年からずっとお世話になっています。今回は私が日本オペラについてまだまだわからないことだらけなので、稽古で必要になる着物や道具のことなどもいろいろとアドバイスをいただき、助けていただいています。

楠野麻衣

2017年 日本オペラ協会公演「ミスター・シンデレラ」赤毛の女役 右は森口賢二

—では今回はすでに共演された方も多く、心強いですね。それにしても、稽古着は着物なのですね!

はい、稽古のときから着物や浴衣を着ます。寒い時期だと、薄い足袋じゃなくてちょっと厚めのがいいわよ、なんてことも先輩方から教えていただきました。洋服とは違うので所作についても勉強しなければいけないことがたくさんあります。先日、所作の指導をして下さる尾上菊紫郎先生から「日本人だということに油断をしないでください。」というお言葉をいただきました。外国人は所作を教わるときに自分が日本人じゃないからということで、新しい文化を知るためにすごく真剣に取り組まれるそうです。崩していいよといってもずっと正座していたり。一方で、日本人は油断しがちになってしまう。「日本人だからと言って出来るとは思わないでほしい」との言葉にハッとして、気が引き締まりました。

—確かに、今すぐやろうとしても出来ることではないですよね。

ドレスだと裾を蹴りながら歩きますが、着物ではすり足で内足になり、歩き方ひとつとっても違うんですよね。西洋の神様は天とつながるように外へと表現しますが、日本の場合は内にこもるような表現も増えます。そういった違いがあるという意味では、本当にゼロからのスタートだと感じています。

—ひとつひとつ、吸収していかれるのですね。マエストロの田中祐子さんや、演出家の馬場紀雄さんとはご一緒されたことはありますか?

田中マエストロは今回が初めてなので楽しみです。馬場先生は日本オペラ振興会に入団して最初に頂いたお仕事、にっぽん丸オペラクルーズの『こうもり』のときにご一緒させていただきました。ただ、馬場先生については、それ以前にオペラ歌手育成部時代に言われて印象に残っていることがあります。試験の審査員として来られたときの講評で「私たち講師陣は、『この花はきれいですよ』と教えることはできても、『この花はきれいだ』と感じる心を教えることはできない。」とおっしゃったんです。感じる心があってこそ生まれる表現があると思うので、歌い手として必要な感性は、教わるものではなく自分で養っていかなければならない、という意味でおっしゃったのかなと思います。

—楠野さんは、ヨーロッパの作品への出演経験も豊富でいらっしゃいますね。日本オペラの違いや魅力というのはどんなところでしょうか?

日本人の感性で生み出されたものの美しさはあると思います。日本人の心って、ひとことで言い表せないニュアンス、例えば「たおやか」とか「しとやか」とか、そういった言葉の持つ色合いのように日本に生まれ育った人じゃないとわからない感覚ってありますよね。そういった西洋オペラにはない日本人の心みたいなところがいいなぁと思いますね。それと、これは先ほどの見どころ、聴きどころに通じる話かもしれませんが、今回の『静と義経』という作品は特に、日本語が美しく、歌うときに自然に流れる、声に乗せやすい言葉を使ってくださっていると思います。

—日本語の美しさも注目ポイントなのですね。日本人としては、ますます楽しみになってきました。

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