1. トップ
  2. >
  3. 公演情報・チケット
  4. >
  5. CiaOpera!
  6. >
  7. Vol.31-清水良一 3

CiaOpera!

歌はつらくも、暮らしは楽しい。得るものの多かったイタリア留学。

—先ほどの、フィレンツェという留学先が珍しい、というお話をもう一度伺ってもよろしいですか?

そうなんですよ。ボローニャという町がフィレンツェに近いのですが、そこへ行く歌い手は多いです。あとミラノへの留学生はもちろんたくさんいるし、ローマもたくさんいますし。日本人に近しいイタリア人の先生がいろいろなところにいて、その人に教わろうとみんな個人を狙って行くのですけど。学校に行くのだったら、ミラノやローマですね。フィレンツェにも一応学校はあるのですけど、どうやら小さいみたいで。僕も行ったことはないのですが。

清水良一

—フィレンツェというと、旅行で行くなら必ずツアーに組まれているような町ですよね。

美術の学生なら、たくさんいます。それから料理の人も多いです。フィレンツェはトスカーナ地方といって、土地が肥えているためにイタリアでもいちばんおいしい野菜が出来て、お肉もあって、それからワインも出来る。おいしいものが集まる地域なのです。メディチ家がいたこともあると思いますが。オペラが生まれたのも、フィレンツェですね。

—そうでした、オペラはメディチ家がルネッサンスで再興した、古代ギリシャ風の芸術なのでしたね!そう思うと、やはりフィレンツェが歌留学にとって珍しいのは不思議な気がします(笑)。

そうですね(笑)。でも、やっぱりオペラの中心はミラノのスカラ座だったり、ローマの歌劇場なのですよね。世界的なオペラ情勢から見ても二大中心地だと思いますし、そこに歌手が集まってくるのは当然なのでしょうね。

—清水さんは、やはり先生がフィレンツェにいらしたために行かれたのですか?

はい、その通りです。僕が行ったとき、すでにお年を召されていたのですが、メッゾ・ソプラノといいながらもコントラルトぐらいの低い声が出る方で、すごく豪快な方でした。

—コントラルトというと、女声でもかなり低い声ですよね。

そうです、あんなに低い声がよく響く人は、イタリアでも結構特殊なほうだと思います。

—とても印象深いお声の先生だったのですね。他に何か思い出に残っているエピソードはありますか?それこそ、特においしかった食べ物など、ありますか?

イタリアには、おいしいものしかないですよ(笑)!レストランには当たりはずれもあるけれど、素材はみんなおいしい。だから、家でつくるのがいちばんおいしいかもしれません。生で食べられるものも多いし。

—ご自身でもお料理をされたのですか?

僕は、ちょっとだけ…バリエーションはあまりありません(笑)。

—得意料理はありますか?

いやぁ、得意料理って感じではないですよ(笑)。僕がつくったのはパスタとかかな。トマトソースのパスタとかは定番ですよね。

—やっぱり基本はトマトソースなのですね。

そうですね。あれはおいしいし、毎日でも食べられる。それにイタリア料理には健康の秘訣がつまっているんです。トマト、ニンニク、オリーブオイル、バルサミコ酢、そしてエスプレッソ。健康生活にかかせないものばかりが自然に取れるようになっているんです。それからワイン。ワインの味はイタリアで覚えましたね。たくさん飲んだなぁ。でもイタリア留学時代って、実は苦しかったのですよ。先生の言っていることがなかなか身につかなくて。先生ご自身がメッゾ・ソプラノなので、バリトンの曲を音楽的に見るというよりはやっぱり発声の教えが中心になってくるのですが、その発声がつかめなくて。1年しかいなかったですしね。帰ってきてだいぶ経ってから「あ、こういうことだったのか。」と分かりましたけど。

—今の清水さんの歌う姿を存じあげていると、にわかには信じられませんが、歌ではつらい時期だったのですね。

はい。結局、まだその頃の自分のなかに、先生の言っていることを受け止める力がないというか、引き出しが足りなかったのですよね。それで模索しながら1年終わってしまって。苦しみましたね。それ以外は全部楽しかったのですが。イタリア人は見ているだけでも楽しくて、刺激的なことが多いのですよ(笑)。

—そうなのですか!たとえばどんなことですか?

僕が住んでいたアパートの前に6車線ぐらいの広い道路があったのですが、その道路を挟んだ向こうとこっちで、すごく大きな声でしゃべりあっているんですよ!ちゃんとお互いに伝わって、会話になっていて。日本だったらありえない(笑)。そういうところから、発声のヒントをもらったりもしました。あとこれはよく聞く話だけれど、時間がきたらお店が閉まっちゃう。僕は幸いそういう目にあったことはないのだけど、人から聞いた話ではまだレジに並んでいたり、郵便局で郵便物を持って待っているのに閉まってしまい、「明日また来てください。」と言われる、とか。日本では考えられないでしょ(笑)。

—そうですね!やはり、仕事とプライベートをきっちり分けているのですね。

それです、だからストレスがないような気がするんですよ。今、日本でもよく思いますが、誰かが仕事していると、結局別の誰かも動かなければいけないんですよ。その連鎖で、みんなが休めなくなってしまう。

—確かに、たとえばお店が開いていなかったら、こちらも休まざるを得ないですよね。

そうなのです。だから、イタリアに行ったとき、「あ、イタリア人はすごく人間的なんだな。」と感じましたね(笑)。日本人としてはちょっと驚きますが、彼らにはそれが日常なのですよね。そういうところが、音楽的な違いにも表れてくるのでしょう。もうひとつ僕がラッキーだと思ったのは、さらにその前、初めてイタリアに行ったときに、ミラノでドゥオーモに入ったのです。そうしたらちょうどミサをあげていて、グレゴリオ聖歌のような歌を4人ぐらいの人が歌いだしたのですよ。そうすると、彼らはそんなに声が大きくないのです。でも、石造りで天井も高いから、小さい声でもすごくよく響く。そのときは「おぉ」というぐらいでしたけど、あとになってみると音楽の始まりって「こういうことだったのか。」と、感覚が理解できますよね。

清水良一

2014年 藤原歌劇団公演「蝶々夫人」ヤマドリ役 左は松浦健、右は佐藤康子

−イタリアに初めて行かれてすぐ、西洋の音楽を根本的な部分を目の当たりにされたのですね。何か啓示のような感じですね。

はい、今でもずっとそのことは考えますしね。イタリアでは、響く音楽がつくられる。日本では、音がすぐ消えてしまう。それぞれの環境で演奏するとはどういうことか。あれは、今に通じるすごくいい体験でしたね。

−貴重なお話、ありがとうございます。

新企画<聞いてみタイム>♪アーティストからアーティストへ質問リレー

アーティストからアーティストへ質問リレー。沢崎恵美さんから、清水良一さんへ。

—今回の聞いてみタイムは、「静」の沢崎恵美さんから「頼朝」清水良一さんへ。どんな質問が届いているでしょうか。

いつもニコニコの良一さん。前回ご一緒した時は悲恋のお相手。今回は仇。バリトンは悪役などやる事が多いですが、役作りなど何か参考にされたり、ポイントにしていたりすることってありますか?

そうですね、悪役多いですよね。普段悪いことしないから、楽しいんですよ(笑)。役づくりのポイントとしては、やっぱり出来るだけ悪く見えるようにすることですかね。相手の悲しみを際立たせるためには、こちらがひどくないといけないですから。そこは気をつけているところですね。で、オペラの悪役の最たる例は『トスカ』のスカルピアだと思うのですが、マフィア映画とかが好きなので参考にしたりします。悪い人たちは、ニコニコしながら人殺しをやっている(笑)。怖いんですよ。

清水良一

−怖いですね!参考になりそうです。

ただ、役によって悪さの種類が違うのです。今回の頼朝は、悪い人ではないんですよ。統一された国をつくろうと思っているのであって、そのために壮大な構想を描いている部分と、そのために逆らう者は殺してしまうという面とを持っている。時代も、そうでしたからね。

−確かに、根っからの悪人であったら、最後のアリアのような気持ちは生まれないですよね。

そうです。「俺は何をやっているんだ。」とね。あとは、やっぱり普段の生活ではできない、悪い感情を持つことを楽しむことでしょうね。バリトンの楽しみはそこですね(笑)。リゴレットとか、トニオとか世界を斜めから見ているような人や、悪人ではないけれど息子のために悪役になろうとするジェルモンとか。

−気持ちを楽しむこと、理解できます(笑)。ありがとうございました。

取材・まとめ 眞木茜

PROFILE:清水良一 Ryoichi SHIMIZU

清水良一

2018年 日本オペラ協会公演
「夕鶴」運ず役

武蔵野音楽大学卒業。同大学大学院修了。平成12年度文化庁在外派遣研修員として渡伊。第66回日本音楽コンクール、第3回藤沢オペラコンクール第2位。第10回奏楽堂日本歌曲コンクール第1位及び木下保賞受賞。郡司忠良、塚田佳男、F.バルビエーリ、五十嵐麻利江の各氏に師事。
藤原歌劇団に02年「カルメン」のモラレスでデビュー後、「ロメオとジュリエット」グレゴーリオ、「蝶々夫人」ヤマドリ、「カルメル会修道女の対話」第二の人民委員、「フィガロの結婚」アントーニオ、「ランスへの旅」アントーニオ、「ラ・トラヴィアータ」グランヴィルに出演。日本オペラ協会には、08年「美女と野獣」の紅屋でデビューし、「天守物語」朱の盤坊及び山隅九平、「高野聖」薬売り、「春琴抄」佐助、「袈裟と盛遠」平清盛、「よさこい節」純信、「夕鶴」運ずなどで高評を博している。
その他、藤沢市民オペラ「ラ・ボエーム」ショナール、「地獄のオルフェ」ジュピター、「トゥーランドット」ピン、びわ湖ホール「竹取物語」翁をはじめ、各地で「道化師」トニオ、「リゴレット」タイトルロールや、「第九」「メサイア」、フォーレ「レクイエム」のソリスト、紀尾井ホールでの「日本の作曲21世紀への歩み」、音楽之友社主催「シリーズ日本歌曲と詩人の心」などの各種コンサート、FMリサイタル等に出演。V.アシュケナージ指揮/武蔵野音楽大学管弦楽団合唱団特別演奏会「鐘」ではソリストを務め高い評価を得ている。
藤原歌劇団団員。日本オペラ協会会員。茨城県出身。

今後のスケジュール

ページ上部