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  7. Vol.39-上江隼人 2

CiaOpera!

ヴェルディのオペラに求められるのは、歌い手と演じ手のバランス。

—上江さんが考える『リゴレット』の見どころはどちらですか?

そうですね、たくさんあって選ぶのが難しいですが、あえて一つあげるなら、終幕、最後の場面でしょうか。自分の娘が、自分の仕えるマントヴァ公爵に汚されたということで復讐を試みますが、公爵の死体だと思ってよく見てみると自分の娘が公爵の身代わりになって死んでいた。その娘の死を目の当たりにしたときのリゴレットの気持ちというものが音楽で表現されているのですが、そのメロディーがものすごくきれいなのです。小鳩が空に羽ばたいて行くかのようなその美しいメロディーを、その場面の心境で歌わなければいけないのがものすごくつらくて。でも、それだけに一番印象にも残ると思うのです。私自身はその場面がもっとも好きですし、演者としてやりがいのあるところだと思います。そこで、さっきお話しした“本質”をいかに表現できるかを追求してみたいですね。

—最後のシーンですか。

はい。娘は自分のところから離れていってしまい、何もかもから突き放されて孤独になってしまう。

—唯一の心の支えだった娘・ジルダが離れていってしまう。本当に孤独でしょうね。

そうなのです。その娘も、ストーリーとしてはずっと一緒に住んでいたわけではなく、呼び寄せて3、4ヶ月ぐらいしか暮らしていないので、その前のリゴレットはずっと孤独だったはずなのです。彼のような宮廷付きの道化師というのは、占い師などのようにちょっと人とは違う能力を使える人と考えられていて、その代わり身体にどこかしら障害を持っている人も実際に多かったようなのです。そうすると、貴族に仕えているので身分もお金もそれなりにあるのですが、人として見なされない。肖像画に描かれるときも、必ずペットと同じ位置に描かれる。そんな扱いをされていたのです。でも、リゴレットにはそれしかできない。貴族たちが、政治的に悪い事を言わなければならないような場面でも自分たちが傷つかないために、道化師に悪口を言わせ、あざ笑わせる、そのための道具になるしかなかった。

—そんな彼が心の慰めである娘を失った悲しみは、計り知れないでしょうね。それにしても、お話を聞けば聞くほど、先ほど上江さんが“壁”とおっしゃっていた「歌い手と演じ手のバランス」の実感が増してきます。

はい。この時期ヴェルディは『リゴレット』『イル・トロヴァトーレ』『ラ・トラヴィアータ』という3つのオペラを作曲しているのですが、これらの作品より前は、通称「番号オペラ」といって、1番:何々のアリア、2番:何々のカヴァレッタ…という伝統的なオペラの作曲スタイルだったのですが、『リゴレット』からはそれが急になくなるのです。アリアやカヴァレッタといった音楽と音楽がより劇的に進行するようにつながって、この作品は特にお芝居の要素がものすごく強くなったのです。私もたくさんオーディションなどでこの作品のアリアを歌いましたが、先ほどのラストシーンのアリアは、感情的になりすぎると声が出なくなって歌えないこともある。でも、芝居を求める人にとってはそれぐらいがよしとなるし、音楽を求める人にとっては「それはやりすぎだ」ということになる。演じることと歌うことが、絶妙に共存していないといけないのですね。

—なるほど。そのさじ加減は、共演者の方々によっても変わってくると思うのですが、今回ご一緒したことのある方はいらっしゃいますか?

ジルダ役の光岡暁恵さんは、ご一緒したことがありますね。ちょうど1年前の『ラ・トラヴィアータ』で、光岡さんがタイトルロールのヴィオレッタで私がジェルモンでした。稽古が大変楽しかったです。マントヴァ公爵役の村上敏明さんもお仕事でご一緒しました。でも役としては、リゴレットと絡みがあるようでいてあまりなく、最初だけなのですよね。リゴレットは孤独な役なのです(笑)。やはり光岡さんのジルダが唯一関わりが多いと思いますが、幸いお互いの歌い方や癖なども知っています。また、音楽と芝居とのバランスの考え方も同じものを持っていると思うので、歩み寄っていけたらいいかなと思います。

上江隼人氏

2019年藤原歌劇団公演「ラ・トラヴィアータ」のジェルモン(右は光岡暁恵)

—それでは、今回も素敵なコラボレーションが期待できますね。マエストロの柴田真郁さんとは、いかがですか?

柴田マエストロとは初めてのお仕事なのですが、歌のブレスを熟知されている方だなというのが印象的で。こちらの歌をすごくちゃんと聴いて合わせようとしてくださるので、かなり歌いやすいです。オペラ指揮者って難しくて、いろいろな人と関わらなければいけないから、自分の信念があって、自分の音楽を突き通すというだけでもダメで。声のことだったり、音楽のことだったり、なんでも知っていなくちゃいけなくて、みんなに信用されなくてはいけない。本当に“マエストロ”という感じですよね。そういった意味で、全体をよく見てバランスを取ろうとされている「オペラ指揮者」としての印象をすごく受けました。

—そうなのですか!では、素晴らしい音楽が生まれること請け合いですね。演出家の松本重孝さんとも、初めてですか?

松本先生は、先日の『ランスへの旅』のときに初めてご一緒しました。松本先生もすごく柔軟性をお持ちで、その人の出来ることをよく見ていらっしゃる方だと感じました。あまりご自身から「こうして」「ああして」と多言はなさらないのですが、本当に必要なことをパッパッと言っていき、それでオペラが成立する。素晴らしい演出家さんだなと思います。

上江隼人氏

2019年藤原歌劇団公演(共催:新国立劇場・東京二期会)「ランスへの旅」のドン・アルヴァーロ

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