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CiaOpera!

長らく拠点を置くイタリアでの、運命的なリゴレット・デビュー。

イタリアで勉強しているとき、ちょうど私の先生がリゴレット歌いの人だったのですが、練習をして本番に乗せられるぐらい仕上がったときに、「昔舞台での体の使い方を教えてくれた、自分の先生のところへ行くか」といわれて。結局、私に教えてくれているとき70代の先生が、勉強していた時代の先生なのでもう亡くなっていたのですが、「じゃあ俺が教える」といって興味深いポイントを教えてくれました。後天的な体の不具合を持った人というのは、もともと動いていた部分が動かなくなってしまいびっこをひくような形になるのですが、先天的に動かない部分を持って生まれた人というのは、それが普通のことなので動作も自然にしなければならない、というのです。イタリア語でも「Zuccone(びっこをひく)」と「Trascinare(引きずる)」というように言葉が区別されていて、生まれ持った自然な動作をつくることで、歌も楽に歌えるようになるんだよといわれました。後天的な動作のほうでは、どこかに力が入ってしまって歌もうまくいかなくなる。それを教わっただけでも、自分のなかではかなり解決したことが多かったですね。リゴレットの演技のヒントを得たと同時に、その奥深さを改めて感じました。

—そのとき得たものが、現在の役づくりにもつながっているのですね。ところで上江さんは、今でもイタリアを拠点に活動されていると伺いました。聞くところによると、あと1回ビザを更新すると永住権が得られるとか。

そうなんです!8、9年はずっと向こうで生活していましたし、最近はほとんど日本にいることが多くなってきましたけれど、できれば永住権まで頑張りたいですね。現在はミラノですが、パルマにもちょっといましたし、さらにヴェルディの故郷であるブッセートの町にもコレペティートル(歌手に伴奏などをしながら音楽稽古をつけるピアニスト)の先生がいたので毎週のようによく通いました。最初に『リゴレット』を歌ったのもそのブッセートでのヴェルディ・フェスティバルで、しかも歌ったその日がヴェルディの誕生日だったのです。

—それはすごい!それもまさに運命的ですね!

はい、そのときはさすがに運命的なものを感じました!ちょっと面白い余談があって、「話がうまくいきすぎていて、なんだか気持ち悪いな」と思ったので、当時住んでいた部屋の下のおばあちゃんに良くイタリアのバールで売っているスクラッチくじを買わされていたのですが、そのついでに自分の分も買ってみたら、何と一枚で100ユーロぐらい当たったのです(笑)。「これはなんか怖いな」と。ある意味気合を入れ直して楽譜を開いたのを覚えております。(笑)そのときは現代的な演出で、あまりせむし男という感じでは演じなかったのですが、ブッセート劇場は満員になっても200名ほど、1階の平場の席は50席ぐらいという小さな劇場で。演じ手の息遣いも全部伝わるし、より臨場感の出る場所だったこともあり、より演劇的にやらせてもらってすごく勉強になりました。

ブッセートでの「リゴレット」公演より

ブッセートでの「リゴレット」公演より

—そこで“演じるリゴレット”を吸収されたのですね。それにしても、長くイタリアにいらして、日本と違うなと感じた部分はありますか?

音楽に対する聴き方が違うな、とは思います。日本人はよく「オペラに慣れていない」といわれますが、私はそれって慣れてないというより、そこで鳴る音の感覚が違うのであって、また日常の生活習慣などによってそれを受け取る感性の違いじゃないかなと思いますね。もちろん言葉の違いは大きいでしょうけどね。日本では大きくて立派な声をつくることがまず第一条件になって、大きい劇場でも通用することを求められることが多いですが、イタリアでは小さい劇場ならではの繊細な表現を求められることもあったり。

—寝て、起きて、食べて、日々を暮らすという活動自体は万国共通のはずですが、ちょっとした習慣の違いの積み重ねで、感性もそれぞれに育まれていくものなのですね。

そうですね。あと、日本では言いたいことがあったとしても言わないのが礼儀や美徳とされることがありますが、イタリアでそれをやると「自分の意見がなくて弱い人」だとみなされてしまう。面白いのは、たとえば遅刻をしたとき、遅刻自体はまぁいいとして、それに対して理由をちゃんと言えなければいけないのです。それは、ある意味嘘でもよくて(いいことではないですが)、内容が面白かったり筋が通っていればいいのですが、とにかく理由をきちんと主張するということを中学生ぐらいの頃から求められるのです。日本では、「言い訳はよくない」と捉えられてしまいそうな感覚ですが、面白いですよね。

—そうなのですか!それは興味深いですね!ところで、上江さんはイタリアでオフの時間は何をして過ごされますか?

私は釣りが好きなので、オフには釣竿を持って出掛けますね。湖や海に行って、趣味として食べられない魚も釣りますし、食べられる魚が釣れたときは自分で料理もします。

上江隼人氏

イタリアで笛田博昭さんと釣りに行っていました

—ご自身で料理もされるのですね。どんな料理をよくつくるのですか?

そうですね、日本食もつくりますが、私はイタリアに行く前にイタリア料理屋でバイトをしていたので、その経験を生かしてたイタリア料理が多いですね。素材の味がすごく大事なのですが、ちょうどミラノの家の前に市場が立つので、新鮮な食材を買ってきて、本場のイタリアの食材で季節の料理をつくるのです。

−お料理、お上手そうですね。貴重なイタリア生活のお話、ありがとうございます。

去年末に作った鳥の丸焼き(チーズリゾット入りジャガイモ添え)

去年末に作った鶏の丸焼き(チーズリゾット入りジャガイモ添え)

ミラノ風カツレツ

ミラノ風カツレツ

新企画<聞いてみタイム>♪アーティストからアーティストへ質問リレー

アーティストからアーティストへ質問リレー。丹呉由利子さん&長島由佳さんから、上江隼人さんへ。

−歌手から歌手への質問コーナー「聞いてみタイム」、今回は、丹呉由利子さん&長島由佳さんのおふたりから、上江隼人さんへのご質問が届いています。

質問コーナー

〜アスリートから学ぶことは何ですか?〜

アスリートですか。そうですね、私たちの仕事は声を使うわけですが、そのためには体もよく鍛錬しなければいけないので、そこがアスリートと同じですね。毎日声を出したり、声づくりのために体の調整をしたり。でも、オリンピックやスポーツのワールドカップを見ていると、いい記録を出す人たちって、やっぱり精神的に負けないですね。その「負けない」という気持ちが、特に歌い手と重なる部分だと思います。たとえば今回の『リゴレット』のように大変な作品を歌わなければならないときに、いかに自分の信念を貫いて、最後まで諦めないでいけるかということを、音楽の上で大事にしています。

−メンタル的な強さが、特に通じる部分なのですね。上江さんは、学生時代ずっと剣道に打ち込まれていましたよね。

はい。剣道も武道なので、精神性のような部分も強いですね。剣道は剣を極めるために、歌い手は歌を極めるために進んでいくところが同じだと思います。だから、他のスポーツのアスリートからも、スポーツを極めるために自分を信じて進む強さが大事だと再認識します。スポーツって勝ち負けの結果がはっきりと出ますが、昨年のラグビーや、オリンピックに向けた様々な試合でも、勝ったときも、負けたときでさえも「また次の試合に向かっていかなければ」と選手がインタビューに答えますよね。「ああ、自分の歌に置き換えても、その精神性は大切だなぁ」と感じますね。

−自分を信じて進む強さに、共通点を見出されるのですね。ありがとうございました。

取材・まとめ 眞木茜

PROFILE:Baritone 上江隼人/Hayato KAMIE

上江隼人
東京藝術大学卒業、同大学大学院修了。2005年に第34回(財)江副育英会オペラ奨学生として、2008年に明治安田クリオティブ財団の奨学生として渡伊。2006年ディマーロの“Val di sole”イタリア音楽コンクール優勝。2011年ヴェルディ・フェスティバル「イル・トロヴァトーレ」ルーナ伯爵で国際的評価を得た。国内では、二期会「ナブッコ」タイトルロール、「道化師」トニオ、「ドン・カルロ」ロドリーゴなど次々と主役を演じ、2015年「リゴレット」ではタイトルロールで喝采を浴び、同年にはブッセートでのヴェルディ・フェスティバルでも同役を演じ大成功を収めた。2016年、二期会/パルマ王立歌劇場/ヴェネツィア・フェニーチェ劇場提携公演「イル・トロヴァトーレ」ルーナ伯爵、新国立劇場「アンドレア・シェニエ」ルーシェ、日生劇場「セビリアの理髪師」フィガロで出演。2018年、新国立劇場開場20周年記念特別公演「アイーダ」アモナズロ、二期会〈三部作〉より「外套」ミケーレ/「ジャンニ・スキッキ」タイトルロール、10月グランドオペラ共同制作「アイーダ」アモナズロで出演。藤原歌劇団には、2019年「ラ・トラヴィアータ」のジェルモンで初登場。同年「ランスへの旅」ドン・アルヴァーロで出演。その他、NHKニューイヤーオペラコンサートに連続出演するなど、国内外で高い評価を得ているバリトンの逸材として注目を集めている。第24回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。藤原歌劇団団員。千葉県出身。ミラノ在住。
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