作品について
紫式部 原作/コリン・グレアム 台本
三木 稔 日本語訳台本・作曲
新制作・日本語上演世界初演
オペラ全3幕 〈字幕付き日本語上演〉
光源氏の栄光と挫折 そして雅な愛の世界。
日本人がこよなく愛す、長編小説のオペラ化作品。
待望の日本語版初演が、満を持してこのたび実現!
イントロダクション
日本オペラ協会が今冬お届けするのは、紫式部が描いた日本文学の最高傑作『源氏物語』を題材にしたオペラ「源氏物語」です。本作は、コリン・グレアム台本、三木稔作曲により2000年アメリカのセントルイス・オペラ劇場で世界初演され、翌2001年に同劇場が日本招聘され日生劇場にて日本初演(英語版上演)されました。今回は、作曲者である三木稔自らが手がけた日本語で世界初演いたします。
物語の主人公・光源氏には圧倒的な存在感を放つバリトン岡 昭宏(2/18)と村松恒矢(2/19)、源氏の最初の愛人・六条御息所には確かな実力で観客を魅了し続けるソプラノ佐藤美枝子(2/18)と砂川涼子(2/19)と、この演目に最も適したキャストを配しました。そのほか源氏の父であり皇帝の桐壺帝、源氏の1番目の妻・葵上など多彩な登場人物を、日本オペラ協会を代表する豪華な布陣でお届けします。指揮は今もっとも期待を集める田中祐子、演出は作品の真髄に迫り、舞台を丁寧に創り上げる演出で観客を魅了しつづける岩田達宗による新制作です。
1000年以上語り継がれてきた平安時代の恋愛小説を、幻想的で色彩豊かな音楽の調べとともにお届けいたします。日本オペラ協会でしか見ることができないオペラ「源氏物語」を、どうぞお楽しみ下さい!
見どころ・聴きどころ
日本人によく知られた話ながら、台本作者コリン・グレアム独自の発想で、ドラマの構図が部分的に変化。グレアムはまず、源氏の父桐壺帝と、源氏の愛人六条御息所を全編に登場させ、桐壺には「物語の全体を人間界の頂点から眺める役目」を与えたので、死してもなお、彼は舞台に存在。自分の妻藤壺が源氏と関係を持ち、幼い冷泉が誕生した顛末も最初から把握させている。続いて六条は、生身の彼女のほか、生霊&死霊の立場も通じて、源氏の人生を揺さぶるべくたびたび出現。哀しい女心が思いのほか力を持つものと人々に警告する役目も担っている。
第1幕では、華々しい清涼殿での幕開けに続いて、琵琶の音が〈六条の戒めの響き〉を奏でる一節と、田舎に住む紫(紫の上)を源氏が見つけ出す名場面、源氏と親友の頭中将が〈青海波〉を涼やかに舞う姿が大きな見どころに。第2幕では、源氏の正妻葵上が六条の生霊に取り憑かれ絶命する悲劇の場と、藤壺が姿を見せぬまま源氏に別れを告げるシーン、須磨の海で源氏たちが嵐に遭遇する場のダイナミックな音楽にご注目を。第3幕では、紫の突然の死(原作から離れた世界)により世の無常を噛み締める源氏のアリアと、幼帝冷泉即位と源氏の摂政就任による壮麗な幕切れがことに光っている。
あらすじ
第1幕
(第1場)清涼殿。桐壺帝(B)と藤壺女御(S)、弘徽殿女御(Ms)、そして幼い光源氏と異母兄の朱雀(後の帝)が登場。宮廷人が賛美するなか、桐壺帝は、全体を把握する超常的存在として、源氏と女性たちとの恋愛を語り、自分の妻の藤壺と源氏の関係も口にしてから、「忘れていた!」と呟き、六條御息所(S)の名前を出す。琵琶による〈六条の戒めの響き〉が聴こえてくる。
(第2場)藤壺の部屋を源氏(Br)が訪ねる。藤壺は「貴方の子供を宿した」と伝え、永遠に別れたいと二重唱で願う。続いて、源氏が六条のもとに赴くと、彼女はアリア〈絶望よ!〉を歌い、源氏に「魂を破壊する愛を理解できますか?」と問いかける。源氏は、藤壺と六条の言葉を思いめぐらす。
(第3場)頭中将(T)が現れ、自分の姉妹で源氏の妻の葵上(Ma)からの手紙を源氏に渡す。恋愛談義を交わす二人は、古い屋敷を見つける。
(第4場)尼僧の少納言(Ms)と笛を吹く少女、紫(S:紫上)が、源氏の突然の来訪に驚く。少納言は「この娘は藤壺さまの姪」と明かす。頭中将が源氏を急かすと、彼は「私が貴女と娘を庇護しよう」と少納言にもちかける。
(第5場)夢の中。六条が源氏に恨み言を述べる。桐壺帝も現れ、汝の妻を大切にせよと忠告。頭中将が葵上と共に出現。葵上は「私はもうすぐ母になる身」と伝える。目覚めた源氏は、「どうやって夢から逃れようか」と嘆く。
(第6場)清涼殿。源氏と頭中将が〈青海波〉を舞う。弘徽殿女御(Ms)は式典の席次に激怒。息子の朱雀(Br)は「帝のご意志」と母親を窘める。帝は「藤壺を女御にし、源氏を摂政に。皇子の朱雀は我が跡継ぎ。その後は幼い冷泉を帝に」と宣言。その後、近寄る源氏に対し、藤壺は「死ぬ日まで私は貴方を愛するでしょうが、対面はもはや無い」と言い放つ。源氏の忠臣、惟光(B)が「少納言が亡くなりました」と伝える。
第2幕
(第7場)紫が琴を弾き、源氏が優しく見つめる。葵上の部屋が二重写しになり、彼女は淋しさをアリアで吐露。惟光が登場し「お子様がお生まれに。葵上様は危篤です」と伝える。葵上の枕元に源氏が急ぐと、六条の生霊が彼女に乗り移る。苦しんだ後、葵上は絶命する。
(第8場)眠っていた六条が目を開け、「恐ろしい夢を見た」と嘆く。源氏が訪れ、互いの状況を察知し嘆きあうが、六条は「愛する人に誠実でいらして」と言う。
(第9場)桐壺帝の崩御で朱雀が即位。弘徽殿が源氏を追放すべく画策する。須磨に流される源氏は、紫との別れを惜しむ。
(第10場)源氏は藤壺に別れを告げに行く。しかし、彼女は姿を見せず、「もはやお目にかかれません。私は出家します」と応える。
(第11場)冬の須磨。惟光や頭中将が同行するなか、源氏は紫のことを思う。すると、京に居る紫の様子が舞台に浮かび上がる。嵐のさなか、突然、桐壺帝の霊が現れ、「船出せよ!」と告げる。源氏と頭中将、惟光は住吉の神に祈る。嵐が止んだ後、三人は明石入道に助けられる。
(第12場)入道の屋敷。彼は源氏に「世の不思議が貴方様を寄こされました。自分には娘がおります」と語る。源氏は、その娘、明石の上が六条に似ていると驚く。二人は結ばれる。
第3幕
(第13場)夢でうなされた朱雀帝は、母后に「亡き帝の命で、源氏を都に呼び戻さねばなりません」と伝える。
(第14場)源氏のもとに赦免の手紙が届く。頭中将と惟光は喜ぶが、源氏は明石の上にすまなく思う。彼女はアリア〈悲しみは浜辺に打ち返される波のよう〉を歌う。
(第15場)帰京した源氏は、関わってきた人々との思い出が、走馬灯(パノラマ)の如く、目の前を行きすぎる感覚に襲われる。
(第16場)源氏と再会した紫は、以前にも増して美しい。頭中将が六条御息所死去と報せるが、その六条の死霊に取り憑かれた紫は、源氏の腕の中で息絶える。源氏はアリア〈太陽は再び登ったが〉で涙にくれる。桐壺帝の霊が「源氏の子孫が帝位を継ぐ」と述べる。幼い冷泉帝の御代が始まり、源氏は摂政に就任する。