作品について
「ナヴァラの娘」
マスネ作曲 オペラ全2幕
字幕付き原語上演
「道化師」
レオンカヴァッロ作曲 オペラ全2幕
字幕付き原語上演
イントロダクション
2018年、藤原歌劇団はフランスの作曲家、マスネがスペインを舞台に貧しい娘の一途な恋の悲しい結末を描いた「ナヴァラの娘」と、イタリアの作曲家レオンカヴァッロ「道化師」をお届けいたします。日本初演となる「ナヴァラの娘」はマスネの「カヴァレリア・ルスティカーナ」とも言われる彼唯一のヴェリズモ・オペラで、当団では今回敢えて「道化師」とのダブル・ビルを企画いたしました。
マスネ「ナヴァラの娘」は、主役アニタを安定した歌唱で定評のある小林厚子(1/27&2/4)と、これが藤原歌劇団本公演デビューとなる西本真子(1/28)、恋人アラキルは舞台経験の豊富な小山陽二郎(1/27&2/4)とヴェテラン持木弘(1/28)がそれぞれ演じます。また二人の仲を裂こうとするアラキルの父レミージョに坂本伸司(1/27&2/4)、大塚雄太(1/28)。物語のキーパーソンであるガリードには田中大揮(1/27&2/4)と、これが当団の本公演デビューとなる村田孝高(1/28)が挑戦します。
レオンカヴァッロ「道化師」で主役カニオを演じるのは、いまや藤原歌劇団の二枚看板となった笛田博昭(1/27&2/4)と藤田卓也(1/28)。この二人が妻に裏切られた男の悲哀をどう演じるかにご注目ください。砂川涼子(1/27&2/4)と佐藤康子(1/28)が若く美しい妻ネッダ役で腕を競います。プロローグで有名な口上を述べるトニオに牧野正人(1/27&2/4)と須藤慎吾(1/28)、ペッペに所谷直生(1/27&2/4)と澤﨑一了(1/28)、シルヴィオに森口賢二(1/27&2/4)と岡昭宏(1/28)が出演します。
指揮は柴田真郁。管弦楽・東京フィルハーモニー交響楽団、合唱・藤原歌劇団合唱部。そして藤原歌劇団公演には2012年の「フィガロの結婚」以来の登場となる、イタリアのマルコ・ガンディーニの演出に期待が高まります。
見どころ・聴きどころ
「ナヴァラの娘」「道化師」とも2幕、プロローグと2幕で構成されていますが、どちらも〈夜想曲〉、〈間奏曲〉を挟んで、それぞれ1幕ものとして上演されることがほとんどです。
今回が日本初演となる「ナヴァラの娘」のタイトル・ロールは、恋に一途であるがために殺人にまで手を染めるという、純朴だが同時に情熱的な娘アニタ。歌い通すだけでも大変なエネルギーが要求される役です。彼女にはいくつかのアリアがありますが、特に第1幕中盤で歌われる「ふたつの心は愛し合っているのです」は、ドラマティックで、かつ美しいもの。また、アラキルが第1幕で歌う「ああ、愛しい人よ、なぜお前はここにいないのか」は、テノール歌手がCDなどで採り上げることのある甘く切ないアリアです。
「道化師」には有名なピースがいくつもあります。プロローグで歌われるトニオの口上「紳士、淑女の皆様、ごめんくださいませ」、第1幕のネッダが歌う「鳥の歌」、そしてタイトル・ロールであるカニオの「衣裳をつけろ」。また第2幕で劇中劇と現実の境目がわからなくなっていく嫉妬に狂った夫と、追い詰められていく若い妻による手に汗握る重唱も聴き逃せません。
あらすじ
マスネ「ナヴァラの娘」
【第1幕】
時は1876年のスペイン。カルロス4世の世継ぎに端を発したカルリスタ戦争は、40年経った今も立憲君主制を支持者と、伝統的な絶対君主制の復活を願うカルリスタとの間の衝突が続いている。立憲君主制支持派の司令官ガリードが、ビルバオの街をカルリスタに占拠された戦況を嘆いている「この襲撃では、大きな犠牲を払った」(ガリード)。そこに恋人アラキルを探しに天涯孤独の娘アニタが現れる。戦場から戻ったアラキルとアニタは再会を喜び合う「心優しき聖母様〜お前のことばかりを考えていた」(アニタ、アラキル)。それもつかの間、アラキルの父親レミージョがやってきて、よそ者で素性も知れぬ娘を息子から遠ざけようとする。ふたりは彼に2年前のロヨラの復活祭での出会いから、これまでを語る「2年前から彼女のことを愛しています」(アラキル、アニタ)が、父はアニタに「息子と結婚したいのならば、2000ドゥロスの持参金を払え」と言う。そのような大金を用意できるわけもないアニタは途方に暮れる。彼女はアラキルとともにレミージョに結婚を許してくれるように懇願する「ああ、ふたつの心は愛し合っているのです」(アニタ)。しかし、レミージョは耳を貸さない。
そこにガリードが現れ、敗走する軍のしんがりを務めたアラキルの勇気を讃え、彼を中尉に昇進させる。アニタはますますアラキルが自分には手の届かない人になっていくことを嘆く。
アラキルの上官たちが皆戦死したことを聞き、カルリスタの攻撃がここに迫っているとの報告も受けたガリードは、「カルリスタの司令官ズッカラーガを報奨金と引き換えに殺害する勇気のある者はいないのか」と言う。それを耳にしたアニタは、2000ドゥロスでズッカラーガを暗殺することを申し出る。「これは我々ふたりだけの密約に」と言うアニタ「神様以外、我々の取り決めを知る者はありません」(アニタ)に、ガリードは「このことは他言しない」と約束した上で、彼女の名を尋ねる。アニタは「私に名前などない。ただのナヴァラの娘(La Navarraise)」と答える。彼女は敵陣へと乗り込むべく去って行く。
アラキルが、アニタの姿を探している「ああ、愛しい人よ、なぜお前はここにいないのか」(アラキル)。中隊長のラモンから、敵陣から負傷して戻ってきた兵士がアニタが「ツッカラーガに会いたい」と言って敵陣に入って言ったと聞いたアラキルは、彼女がスパイだったのではと疑い、真実を知るためにアニタの後を追い、敵陣へと向かう。
【第2幕】
〈夜想曲〉を挟み、舞台はその翌朝となる。
ズッカラーガを刺殺して戻って来たアニタが、ガリードから2000ドゥロスを受け取り、これでアラキルと結婚できると喜んでいる「幸せよ、アラキル、お父さんが望んでいたものよ」(アニタ)。
そこに当のアラキルが瀕死の重傷を負って担ぎ込まれて来る。彼は「お前はズッカラーガの情婦なのではないか。その金はお前が体を売って得た金ではないのか」とアニタを問い詰めるが、彼女は持参金を得るために人殺しをしたとは、口にできない「死ぬ!私のために死ぬなんて!」(アニタ、アラキル)。
そこに敵陣からの弔いの鐘の音が聞こえて来る。アニタが何をしたのかをアラキルはそこで初めて理解するが、その直後彼は息を引き取る。
アニタは彼の後を追って死のうとするが自分のナイフは敵陣に残して来ており、死ぬことも叶わない。正気を失った彼女は、アラキルと教会で結婚式を挙げているつもりになる。彼女の笑い声だけがその場に響き渡り、レミージョとガリードはその場に立ち尽くす。
あらすじ
レオンカヴァッロ「道化師」
【プロローグ】
旅芝居一座の道化役、背中にコブのあるトニオが劇中劇のタッデオの衣裳で現れ、「これからご覧いただきますのは、人間の愛憎劇とその結末。さあ幕開けでございます」と前口上を述べる「紳士、淑女の皆様ごめんくださいませ」(トニオ)。
【第1幕】
8月の聖母被昇天祭の日。南イタリア、カラブリア地方のとある町に座長カニオとその若い妻であるネッダ、トニオ、役者のペッペの旅一座がやってくる。出迎えた村人たちにカニオが今夜の仕事を告知する「23時から素晴らしい芝居をご覧に入れます」(カニオ)。カニオとペッペが村人たちに酒に誘われ、その後夕べの鐘が鳴り、人々が教会に入って行く。ひとり残ったネッダは、夫に自分の浮気が発覚したらどうしようと思うものも同時に空を飛ぶように自由になりたい、と語る「あの眼差しは炎のようだったわ(鳥の歌)」(ネッダ)。背中にコブのある醜いトニオはネッダに言い寄るが、彼女に鞭で打たれて手酷く追い払われる。彼は仕返しを誓う。そこにネッダの若い愛人シルヴィオが現れ、彼女と熱い抱擁を交わす。物陰からそれを見ていたトニオはカニオを呼びにいく。二人は今夜駆け落ちすることを約束し、ネッダは「今夜ね、そうすれば私は永遠にあなたもの」と言う。様子を遠くから見たカニオは飛び出してシルヴィオを追いかけるが逃げられる。戻ってきたカニオはネッダを詰問するが、彼女は男の名前を口にしない。
そこに「芝居の時間だ」とペッペが知らせに来る。カニオは化粧をし、衣裳を身につけながら、こんな気持ちのまま芝居で道化師を演じ、笑いを取らねばならぬ我が身を自嘲する「芝居をする、気が狂いそうになりながら(衣裳をつけろ)」(カニオ)。
〈間奏曲〉
【第2幕】
芝居の始まりを知らせるラッパが鳴り、村人たちが集まってくる。そこにはシルヴィオも紛れ込んでいる。
劇中劇の幕が開く。その内容はネッダ演じる道化師の妻コロンビーナに、召使のタッデオ、アルレッキーノが言い寄り、カニオが演じる夫が戻ってくるので男たちがあたふたするという喜劇。芝居の中でコロンビーナが「今夜ね。そうすれば私は永遠にあなたのもの」というセリフを言った瞬間、カニオには芝居と現実の見境がつかなくなり、妻に「男の名を言え」と迫る「いや、俺はパリアッチョじゃない!」(カニオ)。必死に取り繕って芝居を続けようとするネッダだが、夫の激しい罵倒に「追い出したいのなら、追い出せばいいでしょう」と叫び、二人は激しい言い合いになる。そして嫉妬に狂ったカニオはとうとう妻を本当に刺し殺してしまう。彼女は死に際に「シルヴィオ・・・」と恋人の名を呼ぶ。飛び出して来たシルヴィオもカニオは舞台上で刺し殺す。観客たちが恐怖の叫びをあげる。カニオの手からナイフが滑り落ちる。そして驚きざわめく観客たちに、「これにて喜劇は終わりでございます」と告げられたところで、幕が下りる。
(河野典子)