作品について

グノー作曲
オペラ全5幕 字幕付き原語(フランス語)上演

欲望の罠、永遠の贖罪
魂の契約が生み出す、壮大なグランドオペラがここに蘇る

創立90周年を迎える藤原歌劇団が29年振りに上演
合唱・バレエを含む豪華プロダクションを新制作

イントロダクション

藤原歌劇団が創立90周年を迎える2024年の幕開けにお届けするのは、フランスの作曲家シャルル・グノーが作曲したグランドオペラ「ファウスト」を新春華々しく上演いたします。

ドイツの文豪ゲーテの劇詩『ファウスト』を題材に、1859年、グノーが41歳で作曲した「ファウスト」は、合唱・バレエなどグランドオペラと呼ぶに相応しく、“劇場で観るなら何度観ても飽きない名作”とも言われるほどに親しまれている作品です。藤原歌関団では、54年前の1970年、藤原義江総監督時代に上演されており、題名役を第三代総監督の五十嵐喜芳が務め、当団としても名演として語り継がれています。更に29年前の1995年に藤原歌劇団創立60周年記念公演でも取り上げており、節目に上演するべき大事な演目として、今回も90周年特別公演でお届けいたします。

タイトルロールのファウストは、藤原のニュープリモとして活躍を続けている澤﨑一了が満を持して演じます。老学者から若者までを演じなければならない難役をどのように表現するのかにぜひご注目ください。魅惑的な悪魔メフィストフェレスには、イタリアで活躍を始めており、今回初来日となる若きバス歌手、アレッシオ・カッチャマーニを配しました。ファウストが一目で恋に落ちる女性マルグリートを、実力派ソプラノ砂川涼子が担います。その他、藤原歌劇団の総力をあげたキャスティングでこの大作に挑みます。指揮は、オランダ在住で、日本人として初めてパリ国立高等音楽院指揮科で学んだ阿部加奈子が藤原歌劇団初登場にして、日本でのオペラデビュー。セントラル愛知交響楽団と共にフランス音楽の世界へ聴衆を誘います。演出は、イタリア各地で活躍を続け、こちらも初来日となるダヴイデ・ガラッティーニ・ライモンディを招聘し、幻想的な魔法の世界観をどのように舞台化するのかをぜひご覧ください。

Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホールからお届けする藤原歌劇団公演「ファウスト」ニュープロダクション、どうぞお楽しみに!

見どころ・聴きどころ

文豪ゲーテの戯曲『ファウスト』を扱う音楽作品で最も名高いのはベルリオーズの劇的物語《ファウストの劫罰》(1846)とグノーの歌劇《ファウスト》(1859)である。2作は対照的。前者は「神を通じて悪魔を描き」、後者は「悪魔を通じて神を描いた」ものなのだ。

「司祭になりたい」と望んだグノーにとって、《ファウスト》のオペラ化で何より重視すべきは、「天意の在り方」を明示することであった。それゆえ、本作は、ハ長調の和音をオルガンが鳴らす幕切れ ― 最もストレートな調性で神意を象徴 ― に向かうべく、突進するオペラなのである。

グノーの音作りは流麗で耽美的なもの。第1幕の男声二重唱〈出かけよう〉では、人間と人間くさい悪魔の対話が快活に進み、第2幕のヴァランタンのカヴァティーヌではバリトンが逞しい息遣いを披露して、メロディのストレートな主張を盛り上げる。第2幕を締め括る〈ワルツの合唱〉では、主人公とすれ違うヒロインの「僅か9小節のソロ」が、オペラ史上最も印象的な出会いとして輝くものに。第3幕ではファウストのカヴァティーヌ〈清らかな住まい〉の抒情性とマルグリートが心の昂ぶりを声の技で示す〈宝石の歌〉が人気の名場面。第5幕では妖しいバレエ場面と荘厳な幕切れが対照の妙を発揮する。

あらすじ

第1幕

16世紀のドイツ。ファウスト博士(T)の書斎。学問一筋の老博士は、自分の人生に疑念を持つ。彼は「青春を取り返したい」と願い、神を呪い、悪魔を呼ぶ。

すると、本当に悪魔メフィストフェレス(B)が現れ、博士に契約をもちかける。「あの世で私に仕えるなら、この世では貴方に仕えよう」。ファウストは「快楽、恋人、愛撫、心と官能の・・・」と次々と要求。悪魔が羊皮紙にサインをさせ、ファウストに若さを与える。二人は世の中を冒険すべく出かける。

第2幕

町の定期市。学生たちと青年ワグネル(Br)が青春を讃えて合唱。女たちも声を合わせる。出征を控えた青年ヴァランタン(Br)が登場。妹マルグリート(S)のことを友人の少年シーベル(Ms)に頼み、カヴァティーヌ〈門出を前に〉を歌う。その後、別の友人ワグネルは「心配せずに歌おう」と彼に呼びかけ、〈鼠の歌〉を歌い始めるが、いきなりメフィストフェレスが割って入り、猛々しく〈黄金の子牛の歌〉を歌う。人々はそれを面白がるが、メフィストフェレスの態度にヴァランタンは禍々しさを感じ、自分も「殺されるぞ」と不吉な予言を吐かれたので、怒って剣を抜く。すると突然剣が折れる。ヴァランタンは折れた剣を十字架の形に組み、魔除けにして立ち去る。

空気を変えるべく、賑わいの合唱がワルツのリズムで始まる。ファウストは通りがかったマルグリートを見初めるが、彼女は控えめに返事して立ち去る。音楽が一気に華々しさを増し、人々は歌い踊る。

第3幕

マルグリートの家の庭。シーベルが彼女に捧げるべく花を摘むが、手にした途端に萎れるので嘆く。しかし、聖水に手を浸すと花は萎まない(クープレ〈花の歌〉)。メフィストフェレスがファウストを連れてくる。博士は胸の高まりをカヴァティーヌ〈清らかな住まい〉で歌い上げる。

メフィストフェレスが戻り、シーベルの花束の横に宝石箱を置き、博士と二人で姿を消す。入れ替わりにマルグリートが現れ、シャンソン〈トゥーレの王〉を歌い、伝説の王様の心模様を頭に思い描く。続いて彼女は花束と宝石箱に気づき、箱の中を開けて宝石を手に取り、驚きながらも身に着け、心を昂らせる(エール〈宝石の歌〉)。

すると隣人マルト(Ms)が現れ、マルグリートに向かい、「男の方からの贈り物ね」と言い当てる。悪魔と博士が現れ、コミカルな四重唱が展開。マルトとメフィストフェレスはその場を離れる。ファウストはマルグリートと耽美的な二重唱〈おお愛の夜〉を歌い、二ともに一夜を過ごすべく決意。悪魔が高笑いする。

第4幕

マルグリートは紡ぎ車を回しながら、身籠ったことを悩む。乙女たちの嘲笑の声が聴こえる。シーベルが現れて慰める。

場面は教会に移り、独り祈るマルグリートに悪魔の声が近づき、「神はお前を赦さない」と言い続ける。修道士たちが合唱するなか、マルグリートは失神する。

町の広場では、帰還した兵隊たちが合唱〈武器を捨てよう〉を歌う。ヴァランタンは妹の不始末を聞いて怒る。メフィストフェレスはギターを手にして〈セレナード〉を歌い、ファウストの恋路を揶揄う。ヴァランタンが現れ、博士に決闘を申し込む。しかし、悪魔の力添えにより、ヴァランタンが致命傷を負う。彼は妹を呪い、息を引き取る。

第5幕

山の中。「ワルプルギスの夜」に魔女が集う。メフィストフェレスがファウストを連れて現れ、クレオパトラやトロイのヘレンといった古代の美女たちの魂を呼び出して博士を誘惑させ、バレエが踊られる。しかし、博士はマルグリートの幻を目にして理性を取り戻す。

牢獄。マルグリートは嬰児殺しの罪で収監されている。ファウストがそこに来て彼女を連れて逃げようとするが、マルグリートは錯乱するのみ。しかし、メフィストフェレスの姿を目にした途端、神に必死に祈り始める(三重唱〈清らかな天使よ〉)。やがて彼女は絶命。メフィストフェレスが「裁かれた!」と叫ぶと、天使たちが「救われたのだ!」と歌い、悪魔を阻む。天使たちの大合唱に導かれ、マルグリートの魂は昇天する。

(岸 純信)