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作品について

ヴェルディ作曲

オペラ全3幕 字幕付き原語上演

イントロダクション

ヴェルディ唯一のプリマドンナ・オペラともいえる「ラ・トラヴィアータ」は藤原歌劇団が1990年代から2006年にかけて「ニューイヤー・スペシャル・オペラ」として毎年のように年明けに上演してきた、いわば十八番の演目。タイトルロールをアリベルティ、デヴィヌー、アンダーソン、ゲオルギュ、ロスト、ルキアネッツ、デヴィーア、ボンファデッリ、メイといった錚々たる世界のプリマドンナたちが演じてきました。
今回はそのヴィオレッタを現在の藤原歌劇団を代表するソプラノである砂川涼子(1/25)、新進気鋭の伊藤晴(1/26)、前回のロールデビューで鮮烈な印象を残した光岡暁恵(1/27)という3人のプリマドンナが競演するのが最大の注目点となります。三人三様に描き出すヴィオレッタのアルフレードへの愛が、それぞれこのオペラをどのような色に染めていくのか、その比較も是非お楽しみください。
若さ溢れる一途なアルフレードには、この役を得意とする西村悟(1/25)、気鋭の澤﨑一了(1/26)、リリックな表現にも優れた中井亮一(1/27)。その父、ジェルモンは、藤原歌劇団における主役バリトン役を長年背負ってきた牧野正人(1/25)と総監督の折江忠道(1/26)のヴェテラン勢に加え、藤原歌劇団公演に初登場となる上江隼人(1/27)が務めます。
指揮は、オペラ指揮者としての地位を着々と築きつつある佐藤正浩。そして、常に作曲家への敬意を失わず、奇を衒わぬ正統派の舞台を創ってきた粟國淳が、初めて「ラ・トラヴィアータ」を演出。これまでも数々の舞台で粟國とコンビを組んできたアレッサンドロ・チャンマルーギが、美しい衣裳と美術でこのニュープロダクションを盛り上げます。藤原歌劇団の新たな「ラ・トラヴィアータ」に、どうぞご期待ください。

見どころ・聴きどころ

ヴィオレッタ最大の聴かせどころは、第1幕の「ああ、おそらくあの人なのね〜花から花へ」の大アリア。しかしこの華やかなコロラトゥーラを駆使したカバレッタとは対照的な、音域も低く凝縮した表現が求められる第3幕のアリア「さようなら、過ぎ去った日々の美しく楽しい夢よ」を同じソプラノが歌わねばならないところに、ヴィオレッタ役の難しさがあります。アルフレードには若々しく、輝かしい声が必須。第2幕の冒頭でヴィオレッタとの幸せな暮らしを語るカヴァティーナ「燃える心を」とそれに続くカバレッタ「ああなんという後悔」が最大の聴かせどころです。渋さが光るアルフレードの父ジェルモンが、息子を故郷に呼び戻そうと語りかける「プロヴァンスの海と陸」もヴェルディのバリトンを代表するアリアのひとつです。このオペラは、華やかなアリアばかりが注目されがちですが、実は緻密な心理表現が歌手たちに求められる作品でもあります。特に第2幕第1場のほとんどを占めるヴィオレッタとジェルモンの二重唱「天使のような清らかな娘を」は、息子をこの女から取り戻そうとする父と、真実の愛だからこそアルフレードの家族のために身を引くことを決意するヴィオレッタの駆け引きと動揺、諦観、同情がその二重唱の中で表現されねばならず、歌手たちの実力が試されるところです。

あらすじ

【第1幕】パリのヴィオレッタの館
上流社会の男たちが集うヴィオレッタ・ヴァレリーの豪奢なサロンにはドゥフォール男爵をはじめ、公爵、子爵といった男たちが集まっている。ガストーネ子爵が、ヴィオレッタに紹介したのは、彼女に憧れる、プロヴァンス地方出身の青年アルフレードだった。「乾杯の音頭を」と促されたアルフレードは、ヴィオレッタへの恋心を歌い、ヴィオレッタは彼をからかうように、酒と快楽の人生を謳歌しようと応じる。「乾杯の歌」
華やいだ雰囲気の中、客たちを食事の席へと案内しようとするヴィオレッタだが、めまいがして座り込んでしまう。心配する客たちを「なんでもないわ。どうぞ先にいらして」と隣室へと送り出した彼女は、肺を病んで青白い自分の顔を見つめる。そこにアルフレードが現れ、彼女への想いを「この宇宙のすべての鼓動のような、神秘的で誇り高く、苦しみと喜びに満ちた恋」と熱く語る。そのまっすぐな熱意にヴィオレッタは心を動かされ、一輪の花を差し出し「この花が枯れたら戻っていらして」と言う。二重唱「ある日、幸せに満ちた天女のような」
明け方が近づき、客たちはヴィオレッタに挨拶をして帰っていく。ひとり残ったヴィオレッタは、アルフレードの言葉を反芻して、純愛への憧れを口にする。しかし次の瞬間、自分の高級娼婦として生きている立場を省みて「いいえ、人生を楽しむのよ」と自嘲的に語る。大アリア「ああ、おそらくあの人なのね〜花から花へ」

【第2幕】
(第1場)パリ郊外にあるヴィオレッタのパトロンが所有する別荘
ヴィオレッタがパリの社交界から身を引き、アルフレードと暮らし始めて3ヶ月が過ぎようとしている。アルフレードが、ヴィオレッタとの暮らしの幸せを歌う。カヴァティーナ「燃える心を」
そこに旅姿をしたヴィオレッタの召使いアンニーナが戻ってくる。彼女から、この生活を支えるためにヴィオレッタが財産を次々と処分していることを聞いたアルフレードは、そんなことにも気が付かなかった自分を恥じて「お金を工面する」とパリへと出かけていく。カバレッタ「ああなんという後悔」
彼が出掛けたあと、ヴィオレッタが現れ、アルフレードがいないのを不審がる。彼女は下男のジュゼッペに「商談のお客様がお見えになったらお通ししてちょうだい」と命じる。パリ時代の友人フローラからのパーティの招待状が届いているのを見つけた彼女は「とうとう私の居場所を見つけたのね。誘ったって無駄なのに」と笑いながら、その招待状を脇のテーブルに置く。
そこにジュゼッペに案内されてひとりの紳士が現れる。ヴィオレッタは彼を、待っていた財産を処分するための商談相手と思って迎え入れるが、それはアルフレードの父、ジェルモンだった。ジェルモンは、息子を高級娼婦から取り戻し、故郷へと連れ帰るためにやって来たのだ。突然のジェルモンの来訪にヴィオレッタは驚く。自分の息子が娼婦にたぶらかされ、財産を使おうとしていると思い込んでいるジェルモンに、ヴィオレッタは自分の財産を売り払っている書類を見せる。ジェルモンは意表を突かれるが、自分の娘の縁談が「兄が娼婦に入れ揚げていることが原因で破談になりそうなのだ」と話し始める。二重唱「天使のような清らかな娘を」 その話を聞いたヴィオレッタは「しばらくの間アルフレードと離れています」と提案するが、ジェルモンは彼女に「息子と永遠に別れてほしい」と言い、「男の気持ちなど移り気なものだ。色香の褪せないうちに、儚い夢を見るのはおやめなさい」と語る。彼女は「自分のような女には幸せは訪れないのだ」と悲しげに呟く。そしてヴィオレッタは、アルフレードとの別れを決心してジェルモンに「強くなるために、私をどうぞ娘のように抱きしめてください」と語る。二重唱「お嬢さんにお伝えください〜どうか娘のように」
ジェルモンが一旦去ったあと、ヴィオレッタがアルフレードに別れの手紙を書いていると彼が戻ってくる。「父から厳しい言葉が並んだ手紙が来た」と語るアルフレードに「ならば私はここにいない方がいいわ。席を外すわね」と言いながらヴィオレッタは彼の元からさりげなく去ろうとするが、感極まって「私があなたを愛するのと同じぐらい、私のことを愛してくださいね」とアルフレードに抱きつき、そして去っていく。
彼女の様子に漠然とした不安を抱くアルフレードの元に、パリへと向かったヴィオレッタからの別れの手紙が届く。彼女のあとを追おうとしたアルフレードの前にジェルモンが立ちはだかる。そして、息子に「一緒に家族の待っている故郷に帰ろう」と優しく語りかける。カヴァティーナ「プロヴァンスの海と陸」〜カバレッタ「いや、咎めているのではない」
一度は父の説得に応じそうになったアルフレードだが、テーブルの上にフローラからのパーティの招待状を見つけ、ヴィオレッタが自分を裏切って他の男のところへ行ったのだと思い込んだ彼は、嫉妬に狂い、父の制止を振り切って飛び出していく。

(第2場)パリのフローラの館で開かれているパーティ
華やかなパーティでは、ジプシーたちが踊りを披露している。客たちが「ヴィオレッタとアルフレードが別れたらしい」と噂しているところに、当のアルフレードがひとりで現れる。一足違いでドゥフォール男爵にエスコートされたヴィオレッタが現れ、アルフレードの姿を認めて、パーティに来たことを後悔する。男爵とアルフレードがポーカーで賭けを始めて、アルフレードが勝ち続ける。食事の用意ができたとの知らせに客たちは食堂に向かう。そのときヴィオレッタはアルフレードに「話があるの」と囁く。皆が去ったあと、ヴィオレッタの前にアルフレードが現れる。ヴィオレッタは彼の身を案じて「すぐにここを去って」と話しかけるが、彼はヴィオレッタが自分を追い払おうとしているに違いないと邪推する。そして人々を呼び戻し「この女は俺のために財産を全部手放した。それを全部このポーカーの儲けで支払ってやる」とヴィオレッタに紙幣を投げつける。ヴィオレッタはショックのあまり倒れ、人々はアルフレードの紳士にあるまじき行為を非難する。そこに息子を追って来たジェルモンも現れ、「お前はもう息子ではない」と息子を叱る。我に返ったアルフレードは後悔するが、すでに遅く、男爵は決闘の申し込みの印として、身につけていた手袋を彼に投げつける。

【第3幕】謝肉祭で賑わうパリのヴィオレッタの館
家財道具を売り払いがらんとしたヴィオレッタの館の一室。肺病で余命いくばくもないヴィオレッタがベッドに横たわっている。目を覚ましたヴィオレッタが、うたた寝をしていた召使いのアンニーナに声をかける。外からは謝肉祭を祝う人々の華やいだ声が聞こえてくる。ヴィオレッタの友人で医師のグランヴィルが様子を見にくる。そしてアンニーナに「もってあと数時間だろう」と告げ、また夕方立ち寄る、と言い残して去っていく。ヴィオレッタはアンニーナに、残り少ないお金を貧しい人々に分け与えるように言い、手紙が来ていないか見て来てほしいと頼む。
ひとり残ったヴィオレッタは、何度も読み返しているジェルモンからの手紙を取り出す。そこには、アルフレードと男爵の決闘で男爵が怪我をしたが、その傷も癒えたこと、アルフレードは外国にいるが、あなたに会いに戻ってくる、と書かれてあった。彼女は「待っても待っても彼は来ないわ」と絶望的になり「私の墓には、十字架も花も捧げられることはないのよ」と語る。アリア「さようなら、過ぎ去った日の美しく楽しい夢よ」
そこにアンニーナが駆け込んで来てアルフレードの来訪を告げる。ふたりは再会を喜び合い、アルフレードはこれまでのことをヴィオレッタに詫び「パリを離れて二人でやり直そう」と語りかける。二重唱「パリを離れて」
喜んだヴィオレッタは、教会へ行くと言って着替えようとするが、彼女にはそんな力はもう残っていなかった。彼女は死を覚悟して自分の肖像画の入ったロケットを「あなたに愛する人ができたら、その人に渡してください。あなたを心から愛した女が天国から見守っていると」と言いながら、アルフレードに手渡す。
駆けつけたジェルモンはやつれ果てたヴィオレッタの姿に、自分がしたことの残酷さを見せつけられて後悔し、アンニーナに呼ばれて戻って来たグランヴィルとともに彼女を見守る。
ヴィオレッタは突然立ち上がり「不思議だわ。もう苦しくないわ。もう一度生きられるのよ」と喜びの声を上げるが、その直後その場に崩れ落ち、息絶える。
(河野典子)

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