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作品について

ドニゼッティ作曲

オペラ全2幕 字幕付き原語上演

イントロダクション

6月の藤原歌劇団公演「愛の妙薬」は日生劇場からお届けします。NISSAY OPERAとのコラボレーションは、2015年「ランスヘの旅」に始まり、「ドン・パスクワーレ」「ノルマ」「ドン・ジョヴァンニ」に続きこれが5作品目となります。
本年1月公演「ラ・トラヴィアータ」のヴィオレッタで、その豊かな表現力を聴衆に強く印象づけた伊藤 晴(6/29)と、今回が藤原歌劇団デビューとなる若手の中井奈緒(6/30)が、主役アディーナを演じます。ネモリーノの中井亮一(6/29)と小堀勇介(6/30)による、甘くとろけるような<人知れぬ涙>は、このオペラ最大の聴きどころ。芸達者な久保田真澄(6/29)と三浦克次(6/30)のふたりが、このオペラの狂言回しである怪しい薬売りのドゥルカマーラ役で舞台を引き締めます。アディーナに言い寄る軍曹ベルコーレには、須藤慎吾(6/29)と大石洋史(6/30)、大抜擢の石岡幸恵(6/29)と網永悠里(6/30)の若いソプラノふたりが、体当たりで村娘のジャンネッタを演じます。
指揮は、2016年の「カプレーティ家とモンテッキ家」以来の登場となる山下一史、今やこの作品の定番ともなったチャーミングな舞台の演出は、粟國 淳。
若者たちの微笑ましい恋の物語を、フレッシュなキャストによる舞台でどうぞお楽しみください。

見どころ・聴きどころ

甘く切ないテノールの第2幕のロマンツァ〈人知れぬ涙〉は、このオペラの中でも特に有名ですが、同じくネモリーノが第1幕冒頭で、アディーナに見惚れて歌う「なんて美しい!なんと愛らしい!」も純朴な青年そのものの美しいカヴァティーナ。一方、第1幕でベルコーレがアディーナに花を捧げて歌う「パリスが気取って」は、いかにも軍曹らしい凛々しい歌です。
アディーナが、第2幕でネモリーノへの想いを自分から告白する「受け取って、これであなたは自由よ」は、優美なメロディ・ラインを持つアリアで、聴く人の心を捉えます。また、披露宴の場面の劇中劇として、アディーナがドゥルカマーラと歌って演じる、ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの娘ニーナと上院議員の恋物語の舟歌は、実にチャーミング。その舟歌のメロディは、怪しい旅の薬売りのドゥルカマーラが、立て板に水の見事な口上を披露する華やかなフィナーレのアリア「この薬はなんでも治します」で再登場します。このフィナーレは過去数々の名バッソ・ブッフォたちが競って演じてきたドゥルカマーラの独壇場ともいえる聴かせどころです。

あらすじ

【第1幕】
スペイン・バスク地方のとある農村。裕福な農場経営者のアディーナは、農民たちと離れたところで本を読んでいる。内気な村の青年ネモリーノは、美しい彼女のことを遠くからうっとりと見つめるばかり。アディーナは、村の娘たちに本を読んで聞かせながら「イゾッタ(イゾルデ)を一瞬にしてトリスターノ(トリスタン)の虜にしたという媚薬(愛の妙薬)があるのならば、その作り方を知りたいものだわ」と言う。
そこに太鼓の音がして、軍曹のベルコーレと、村の駐屯部隊の兵士たちがやって来る。ベルコーレはアディーナに花束を差し出し、求婚する。はっきりしないネモリーノに業を煮やしたアディーナは、なんとその求婚を受けてしまう。
そこに派手な風体の怪しい旅の薬売りドゥルカマーラとその一行が馬車で到着。ネモリーノに「イゾルデが恋に落ちたという薬はないか」と尋ねられたドゥルカマーラは、すかさず「これこそがその薬!これを飲めば、明日には村じゅうの娘たちがお前さんに夢中になるぞ」と愛の妙薬(実はただの安物の赤ワイン)を売りつける。それを飲んで、明日こそアディーナが自分を好きになってくれる、と期待に胸を膨らませるネモリーノだが、ベルコーレとアディーナが今日結婚すると聞いて、大慌てでドゥルカマーラに助けを求めに走っていく。

【第2幕】
婚礼披露も宴たけなわ。ご馳走をひとり食べ続けるドゥルカマーラのところにネモリーノがやってきて「なんとか今日中に薬が効くようにしてほしい」と頼み込む。「お金を払えば、もう一本売ってやる」と言われたネモリーノ。その話を聞いたベルコーレは、これは恋敵を追い払えて一石二鳥とばかり、彼に軍隊への入隊を勧める。さっそくその話に乗ってお金を得たネモリーノは、もう一本“妙薬”(=安ワイン)を買い、一気に飲み干す。
中庭ではジャンネッタをはじめとした村の娘たちが「どうもネモリーノの裕福な伯父さんが亡くなって、彼に莫大な遺産が転がり込むらしい」と話している。そこへやってきたネモリーノのことを彼女たちはこれまでと違ってチヤホヤする。彼は「薬が効いてきた」と大喜びし、その様子を見たアディーナは、意外な事の成り行きに驚きを隠せない。
ネモリーノが、村娘たちに囲まれた自分を見てアディーナが涙ぐんでいたことを思い出して「彼女は僕のことを愛しているんだ」と幸せを噛みしめているところにアディーナが来て「このお金で準備金を返して軍隊に入るのはやめて、ここにいてちょうだい」と、彼女の方からネモリーノに愛を告白する。長年の恋が成就したネモリーノは「これは愛の妙薬の効力だ!」と大喜びする。
ドゥルカマーラは「恋が成就したのは、わしの売ったこの愛の妙薬のおかげ」と吹聴ながら、皆に見送られて賑々しく去っていく。
(河野典子)

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