アーティスト インタビュー

石田 滉

キャラクターとしても、声としてもぴったりのステファノ役で藤原歌劇団公演デビューを飾る

Vol.61

原作では出てこない役をあえてグノーが設定したというところにグノーのメッセージが詰まっている。

多くのお客様が最後の最後まで展開をご存知であろう「ロメオとジュリエット」。今回、声としてもぴったりのステファノ役で藤原歌劇団本公演デビュー。素晴らしい出演者、関係者の皆様に囲まれて、藤原歌劇団本公演デビューを迎えられることがとても嬉しい。ステファノ役は以前から演じたいと思っていた。イタリア・ペーザロで参加したアカデミアで学んだ発声や、演技をこの役に生かしたい。

今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けするコーナー「CiaOpera!」。第61弾は、2025年4月26日(土)・27日(日)に上演する藤原歌劇団本公演「ロメオとジュリエット」に、ステファノ役で出演する石田 滉氏。藤原歌劇団デビューへの意気込みや、共演者、指揮者との縁、フランス音楽の魅力。加えてイタリアで行われたアカデミアの参加で得たことや自身のテーマなど、幅広く語っていただきました。

以前からずっと演じたいと思っていたステファノ役

―本日は、藤原歌劇団本公演「ロメオとジュリエット」にて、4月27日にステファノ役を務める石田 滉さんにお話しいただきます。早速ですが、今回藤原歌劇団公演デビューとなる意気込みを教えてください。

はい。今回、藤原歌劇団という歴史のある素晴らしい公演で、役にも、声にも合っていると感じているステファノ役でデビューさせていただけることが本当に嬉しいです。素晴らしい出演者と関係者の皆様に囲まれて、藤原歌劇団本公演デビューを迎えられることをとても幸せに感じています。

―今回フランス・オペラを演じるのは初めてですか?

シャブリエ作曲「エトワール」に一度出演したことがあります。
今まではイタリア・オペラが多かったので経験の少ない分野ではありますが、フランス音楽は大好きです。ステファノ役はいつか必ず演じたいと思っていた役なので、以前からアリアだけ自分で勉強したり、心の準備を昔からしていました。

―フランス・オペラを歌う際に気をつけているところはありますか?

フランス語は他の言語に比べて母音の種類が多いので発音が難しいですが、その複雑さゆえ、言葉の響きそのものから表現におけるインスピレーションを得ることが多いなと感じています。だからこそ明瞭な発音で、言葉を伝えたいです。

あとは、グノーや、フランス・パリの作曲家の音楽には、パリのなかなかカラッと晴れない曇り空だったり、繊細なカラーを帯びた街の景色のようなアンニュイな美しさが作品の節々に散りばめられているので、そういう魅力を演奏で表現できるように、フランス語の発音以外にも、フランスの気候や文化にも興味を持って勉強しています。

―原語によってさまざまな色が出てきますよね。それでは今回演じるステファノ役について教えてください

ステファノは原作には出てこないんですが、それをあえてグノーが設定したというところにグノーのメッセージが詰まっていると思います。ステファノが歌うのは、第3幕のみですが、美しいシャンソンが与えられています。男性キャストが多い中で異色なズボン役であることや、グノーの作品においてはステファノの挑発が決闘の発端となることなど、空気をガラッと変えられる役どころじゃないかなと思っています。
演出家の松本さんとお話させていただき、グノーがステファノに与えた軽快で爽やかな音楽から、12歳の自信家の少年に設定しました。ストーリーに新しい風を吹かせて、お客様に何か気づきを与えられるような役だと思っています。原作には無い役の役作りは難しいですが、可能性が無限にあって、出番は少ないけれどとても面白い役どころだなと感じています。

ステファノは、女性が男性を演じるというズボン役です。男性が男性を演じるのではなく、女性が演じることで、声変わりや体が成熟する前の若い少年を表現できるわけですが、自信家のステファノを演じる上では、これに加えて女性特有の精神的な強さ、芯の強さみたいなものも、役に生かすことができるのでは、と思っています。

―これまでズボン役でのご出演はありますか?

これまでに「フィガロの結婚」のケルビーノ役、先ほどの「エトワール」のラズリ役を演じさせていただきました。オペラ公演ではないですが、アリアや重唱などのワンシーンで歌ってきた役ですと、「ナクソス島のアリアドネ」の作曲家役や、「皇帝ティートの慈悲」のセスト役、「オリィ伯爵」のイゾリエ役なども大好きです。

女性だからこそ演じられる部分を求められていると思っているので、女性特有の芯の強さを生かして、一本筋の通ったところで真っ直ぐに歌う声や音楽でありたいし、時に華やかさもあるズボン役を演じたいです。

人生のテーマ「歌うように、描くように」という言葉をとても大切にしています

―2024年の夏、ペーザロでロッシーニ・オペラ・フェスティバルのアカデミアに参加されてましたね

はい。2023年11月に日本オペラ振興会主催の、エルネスト・パラシオ先生とカルメン・サントーロ先生のマスタークラスに参加し、その時には私の実力不足でアカデミアへの推薦をいただけませんでした。しかし、どうしても諦めきれず現地ペーザロでのオーディションを受けて合格し、昨年の夏にロッシーニ・オペラ・フェスティバルのアカデミアに参加させていただきました。「ランスへの旅」の稽古を通して、他のアカデミア生や、フェスティバル総裁のエルネスト・パラシオ先生をはじめ、講師の先生方から、たくさんの刺激を受けました。演奏、演技、どちらにおいても大きな絵を描くように表現をすることや、イタリア語の語感などが素晴らしく、必死に真似していました。そこから自分の中からも何か引き出せるものがあったなと思います。

また、イタリアの建物は石造りが多く、劇場や稽古場だけでなく借りているお部屋でも声がよく響きました。そのような環境で2ヶ月間生活をする中で、無理なく声を響かせたり遠くに言葉を明瞭に伝える術が自然と身について、これが私にとって発声の面で大きなヒントとなり、アカデミアの期間に受けたファン・ディエゴ・フローレスさんのマスタークラスで教えていただいたsul fiato(声を息に乗せて支えるように歌う技術)の理解に繋げることができました。

アカデミア公演「ランスへの旅」©︎Amati Bacciardi

―ペーザロでの滞在期間中、オフの日は何をされてましたか?

アカデミア期間中はオペラの稽古もタイトなスケジュールで、その他にもコンサートへの出演もあったので、予習や復習、個人練習の時間に充てました。でも、ペーザロは海に面した街で、稽古場から10分弱歩けば海なんです。パラシオ先生も、「休みの日は海で泳ぎなさい」とおっしゃっていたので、時間を作ってアカデミアの仲間と海に泳ぎに行った日もありました。

―少しはイタリアも楽しめたんですね

アカデミアの仲間とはSNSで繋がり交流があり、ヨーロッパの舞台で活躍する皆の近況がわかるので、今でも彼らからたくさんの刺激を受けています。素晴らしい仲間たちに出会い、感化されることが、高みを目指す上でどれだけありがたいことかと幸せに感じています。
ロッシーニは特に大好きな作曲家で、私のレパートリーの主軸でもあるので、ロッシーニ・オペラ・フェスティバルは本当に自分にとって刺激の強い多い場所です。ペーザロにできる限り行きたいと思います。

―それは貴重な2か月の経験でしたね

その時が初めて、今までで一番長いヨーロッパでの滞在だったので、価値観も大きく変わったなと思います。ロッシーニ・オペラ・フェスティバルの期間中は、アカデミア公演「ランスへの旅」の稽古後には、フェスティバル内で開催されている他のコンサートや、オペラのリハーサル・本番を観に行き、その度に世界で活躍する素晴らしい歌手の演奏に感激したりと、まさにロッシーニ・オペラ漬けの日々でした。稽古以外にもマスタークラスや座学も充実していましたし、一緒に参加しているアカデミア生の中には、すでにスカラ座デビューをしている人もいて、本当に毎日が刺激的でした。
私は、毎日自分の中に生まれてくる感情やイメージ、色や音楽の全てを、歌うように描くように自由に表現したいという思いが強く、「うたうように えがくように」という言葉にその思いを込めて、人生のテーマとして大事にしています。そのため、技術の習得はもちろん、様々な経験をして、より多くの感情を持つことや、知らない景色に出会い、異国の地の気候や食べ物、文化を知ったりと、五感の全てで人生経験を重ねていくことがとても大切だと思っているのですが、ペーザロでも私にとって多くの引き出しを得ることができたかけがえのない2ヶ月だったと思い、感謝の気持ちでいっぱいです。

©︎Amati Bacciardi

ロッシーニ・オペラ・フェスティバル アカデミア公演の様子はこちらをご覧ください。

ロッシーニの作品を主軸に、コルブランロールを歌える歌手になりたい

―「ロメオとジュリエット」のお話に戻りまして、グノーの音楽の魅力はなんでしょうか?

分かりやすく「美しい」です。例えば、初めてオペラを観るという方にとっても、クラシックの専門知識がなくても楽しめるのではないかというほどの旋律美は、まず大きな魅力だと思います。先日マエストロがおっしゃっていましたが、グノーはイタリアに憧れていたんですね。「ロメオとジュリエット」はイタリア・ヴェローナが舞台ですから、グノーの憧れがたくさん詰まっているのではないでしょうか。その情熱が作品の節々から感じることができると思います。グノーが得意としたフーガが用いられたオペラの冒頭部分も魅力ですし、個人的には作品の所々に散りばめられた半音階のフレーズが、もどかしさや感情の高まりなどの表現に効果的に使われていて素敵だなと感じています。

それから何と言っても、ロメオとジュリエットの掛け合いのシーンの極上の美しさ。そして、うっとりするほど美しいシーンがあったかと思えば、決闘のシーンでは、モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」の騎士長とドン・ジョバンニの決闘を思わせるような衝撃的な音楽で描かれていたりと、幅広い表現で心揺さぶられる作品だと思います。

―聴けるのがとても楽しみです。稽古が進んでいると思いますが、様子を教えてください。

今回、藤原歌劇団の稽古に初めてキャストとして参加させていただいていますが、共演者、関係者の皆さまがとても優しく迎えてくださり、演奏や演技においてもたくさんのご助言をいただきながら稽古に打ち込めています。また、和気あいあいとした稽古場の雰囲気がとても素敵で、初参加の緊張というのは早々に拭われました。
私が学生の頃、プライベートに思い悩んで上手く歌えなかった時に師匠がおっしゃった、「歌で誰かを幸せにするためには、まず自分が幸せになるんだよ」という言葉を思い出しますが、一つのオペラを成功させるために作品に向き合う日々は決して楽しいだけではなく、努力の積み重ねですが、稽古場の楽しい雰囲気というのは、全員で力を合わせて作品をより良く作り上げていくためにとても大切だなと、そういう空気があってこそ、素敵な何かが生まれるのではないかと思っているので、本当に幸せな環境でオペラに専念させていただけているなと感じています。

―これまで共演された方いらっしゃいますか?

実は園田マエストロは、初めてのオペラ出演となった藝大オペラ「フィガロの結婚」にケルビーノ役で出演した時のマエストロでした。マエストロとお話しする中で、ロッシーニがすごく好きだという話をしたことからだと思うんですけれども、藝大修了後には「湖上の美人」でご一緒させていただきました。また山本康寛さんも「湖上の美人」でご一緒していますし、米田七海さんはこの間のロッシーニ・オペラ・フェスティバルのアカデミア公演「ランスへの旅」でご一緒しました。

―藝大オペラに出演した当時、園田さんに言われた印象的な言葉や、今でも印象に残っている言葉はありますか?

そうですね。ケルビーノだとズボン役、少年を演じるのですが、男役と思うとどうしてか声を太く、暗めに歌ってしまうことがあって、そんな時に「自分らしく歌っていいよ。」とお声がけいただきました。声を作らずそのままのあなたの声で歌っていいよ、とおっしゃっていただけるというのは、歌手にとって最も幸せなことだと思います。

―とても心強いお言葉ですね。今後、どのような歌い手になりたいですか?

私はロッシーニが大好きなので、ロッシーニを主軸に据えて、自分の声に合ったレパートリーを構築し歌っていきたいです。ロッシーニで言えば「ラ・チェネレントラ」や「セビリャの理髪師」などの有名なオペラに加えて、ロッシーニの最初の妻であったイザベラ・コルブランに当てて書いた、「湖上の美人」のエレナ役や、「オテッロ」のデズデーモナ役、「エルミオーネ」の題名役などのオペラ・セリアは、音域や声質にとても合っていると思うので、コルブランロールをぜひ歌っていきたいです。あとは、今回のステファノのようなズボン役も、役や声質に合っていると思うので、今後レパートリーを増やせていけたらいいなと思っています。

さっきも人生のテーマであり、歌手としてのテーマとして「歌うように、描くように」とお話ししましたが、表現の引き出しを増やして、技術を磨き、お客様の目に、景色や役のバックグラウンドが浮かぶような歌が歌える歌手になりたいです。

<聞いてみタイム♪>

石田 滉さんに、ちょっと聞いてみたいこと。

―さて、今回の「聞いてみタイム♪」のコーナーは、石田さん。サイコロを振っていただき、出た番号の質問にお答えいただきますが…

びっくりしたこと

ペーザロでの体験なのですが、私は本当に抜けているところがありまして…(笑)
ペーザロでの生活にも慣れてきた頃、稽古のことを考えながらスーパーでぼーっと買い物をして、なんとクレジットカードをレジに忘れて帰ってしまったんですね。イタリアを経験されたどなたからも、貴重品の管理には気をつけて、と聞いていたのにも関わらず、これは終わった…と思ったのですが、ダメ元でスーパーに戻ったら私の顔を見るなり「これのことでしょ?あるわよ!」とカードを保管していてくれたんです!大反省をしつつも、イタリアで無事にカードが見つかったことにびっくりして嬉しくなりました。ペーザロでは関わったイタリア人が皆本当に優しくて、平和ボケしてしまうな…と思っていたら、今度は借りている家の目の前でパトカーが止まっているんです。「私何かやらかした?」と不安になっていると、手錠をかけられたおじさまが、そのパトカーに吸い込まれていきました。これまたびっくりして、警察の方に何があったか聞いたら、「何にもないよ、いい夢見てね、おやすみ」と…イタリアでは、色んなびっくりがありました(笑)

―イタリアでのお話しからオペラについてまで、ありがとうございました。

©Taira Tairadate

石田 滉

メッゾ・ソプラノ/Mezzo Soprano

藤原歌劇団 準団員

出身:千葉県

公演依頼・出演依頼 Performance Requests
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