「クロティルデ」は、出番は少ないながら、悩みと葛藤の日々を送る「ノルマ」が唯一心許せる「腹心の友」。世界的なベルカント・オペラの名手、マリエッラ・デヴィーア氏とのみやりとりをする役として、同じ舞台に立てることに大変な緊張感と幸福を感じる。『ミスター・シンデレラ』では一変、日本語の歌唱を研究し、なにが起こるか読めない稽古場を楽しみにエキセントリックな日本のコメディー・オペラを表現したい。ラジオ番組のナレーションや、脚本家としての一面も持っている。完全に体を休めるリラックスデーもあるが、文化活動を楽しむ日々が性に合っていると思う。
今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けする新コーナー「CiaOpera!」。第13弾は、7月1日・4日に、ベッリーニのオペラ『ノルマ』に、ノルマの親友クロティルデ役で出演される牧野真由美さんに、作品への意気込みやマリエッラ・デヴィーア氏との共演、出演者について、10月の出演作『ミスター・シンデレラ』について、そして多彩な日常生活について、お話を伺いました。
ノルマとクロティルデ。表に出ない、深い信頼関係を感じさせるシーンに。
ーまずは、いよいよ7月に上演がせまって参りました『ノルマ』についてお話を伺いたいと思います。牧野さんは、今回「クロティルデ」の役で7月1日と4日に出演されますね。このクロティルデ役は、初役でしょうか?
はい、日本ではめったに上演されない演目ですので、『ノルマ』という演目に携わるの自体が初めてです。
ーそうでしたか!では、本作に臨むあたっての意気込みをお聞かせいただけますか?
なんといっても、ベッリーニの名作として名高いこの『ノルマ』に、小さい役ながらも関われるということはとてもエキサイティングですし、私の出演する日は「ノルマ」役がマリエッラ・デヴィーアさんであり、「クロティルデ」の登場する場面はすべてノルマとの会話だけですので、緊張感は非常に大きいです。ですが、楽しみでもありますね。
ーノルマとしか関わらない役なのですね!クロティルデという人物について、少し解説をお願いできますか?
はい。この作品は、なんといってもノルマがいちばん大きな役で、声楽的にも難しい技巧でずっと歌い続けなければなりません。もちろん「アダルジーザ」や「ポッリオーネ」も大役ですし、それから「オロヴェーゾ」というノルマの父親役も、ノルマの運命の鍵を握る重要な役です。チラシには、そのあとに「クロティルデ」が書かれていますが、出番はとても短くて。音符の数だけ数えると「あら、これだけかしら?」と思ったりもするのですが、代わりに登場シーンはほぼノルマとふたりきりなのです。ご存知のように、ノルマという女性は、社会的に責任のある立場にありながら、敵対するローマの大将と恋に落ち、ふたりの子どもをもうけてしまうという非常に難しい状況で、不安と緊張のなか毎日を過ごしているわけですね。そんななかで、ふたりの子どもを実際に誰が育てているかというと、クロティルデが育てているのです。ということは、クロティルデはノルマの重要な秘密を守らなければならない立場にあり、ノルマにとっては、自分の秘密を話し、状況を受け入れてもらっているほど信頼している存在でもあるのですね。楽譜には、クロティルデのことをノルマの「confidente(コンフィデンテ)」と書いてあるんです。一般的な「女友達」という意味の「amica(アミーカ)」でも良さそうなものですが、この「confidente」という言葉には「心から信じる腹心の友」という意味があるようなのです。
ーあえて「confidente」と書かれているのですね。ノルマの心の支えとして、大変重要な役なのですね。
そうなのです。かつて愛した人は自分に背を向け、彼の新しい恋人はなんと自分を信頼して恋の相談に来たアダルジーザその人であり、年若い彼女に対しては少なからず威厳を持って接しなければならない。葛藤や悩みを常に抱えて、孤独のなかに生きているノルマとふたりきりになったとき、クロティルデは今ノルマ自身がどう思っているのか、母親としてどうあるべきかなど、まるで彼女の鏡のように、自問自答の手助けをするような質問をするのです。それからまた、ノルマと会っていない、ひとりでいるときのアダルジーザの様子をノルマに報告するという、そんな場面もあります。
ークロティルデは、常に強くあらなければいけないノルマが、唯一少し弱い部分を見せられる、ホッとできる存在なのですね。
そうだと思います。見守っている立場であると思います。
ーでは、今回はマリエッラ・デヴィーアさんを支える役なのですね!
はい。現代のオペラ界のなかで、ベルカント・オペラを歌ったら右に出る者はいないのではないかと思われるような、ベルカント・オペラの女王といってもいいような方ですよね。その方と同じ稽古場に、ずっと一緒にいられるというのはとても光栄で、幸せなことです。
ーデヴィーアさんと共演されるのは、初めてですか?
はい、初めてです。稽古場でもクロティルデと同じように、少しでもデヴィーアさんが歌いやすいよう、出来ることを精一杯させていただけたらと思います。
ー楽しみですね!クロティルデがノルマの心を強く支えている、その関係性が見どころなのですね。
そうですね。短い場面ではあるのですが、それでもデヴィーアさんと同じ瞬間に舞台に立って歌うということは声楽家として緊張感のあることですし、短い時間のなかでも、ノルマが恋に落ちて、子どもを産んでからこれまでのあいだずっと悩みながら暮らしてきた、そんなノルマの本当の姿を垣間見られるような、舞台には出ていない部分も伝わる場面に出来ればと思っています。
ー作品全体を通しての、牧野さんのオススメポイントはありますか?
それはもう、たくさんあります!粟國淳さんの演出は大変美しく、登場人物ひとりひとりの心情が伝わってくるものですし、それからやはりベッリーニの音楽の、イタリアのベルカント・オペラを象徴するような美しいメロディーやハーモニーが魅力です。とにかくどこをとっても音楽が美しいのです。個人的には、なかでもたとえばノルマとアダルジーザの二重唱などは聴きどころだと思いますし、なんといってもノルマが1幕で歌うアリア「清らかな女神よ」は壮大な場面になるのではないでしょうか。粟國さんは“月”をモチーフにするとおっしゃっていたので、月や自然と一体になった神々しい世界をおつくりになるのではないかと思います。
ー想像するだけで素敵そうですね!
はい。それから時代背景も紀元前のことで、まだローマ帝国も建国半ばというような時代に、それぞれの土地に根付いた原始的な風習や宗教を描いているのですが、例えば女性が戦士として戦いに参加することもあったようなのです。ですから合唱団のなかに女戦士の格好をした方がいたりと、舞台はヨーロッパでありながらも古代ならではの装束を身につけています。一方で音楽自体は19世紀のものですので、複合的な時間旅行が楽しめるというのが、本作のポイントだと思います。
ー今回、マリエッラ・デヴィーアさんとの共演は初めてとのことですが、他の出演者のみなさんとはいかがでしょうか?
ポッリオーネ役の笛田さんとは、何度もご一緒しています。今や藤原歌劇団が誇る大テノールとして、デヴィーアさんの相手役で堂々と歌われるのだな思うと感慨深いですね。オロヴェーゾ役の伊藤さんとは、『仮面舞踏会』の初演のときにご一緒しました。フラーヴィオ役の及川さんは、2014年の『蝶々夫人』のときにピンカートン役のカヴァーをされていたのが出会いです。アダルジーザ役の、ラウラ・ポルヴェレッリさんは初めてです。今回のプロダクションは、若い方達が多いんですよ。7月2日のキャストの方達も、フレッシュながら実力の確かな、これからの藤原歌劇団を背負って立つ方々ですので、ぜひ両日足をお運びいただけたらと思います!
エキセントリックな日本オペラを、縁深い共演者と共に。
ー一方、今年の10月には日本オペラ協会の公演『ミスター・シンデレラ』へも出演されますね。『ノルマ』がイタリアの作品であるのに対して『ミスター・シンデレラ』は日本の作品ですが、歌われるときには気持ちの切り替えをされていますか?
切り替えますね。外国語のオペラを歌う場合は、お客様が日本人でいらっしゃることもあり、必ずといっていいほど字幕が出ます。今どういう場面で、人物がどういう心情であるかということが字幕を通して伝わるようになっていますが、『ミスター・シンデレラ』は日本語のオペラで字幕もないので、私たちの歌う言葉をお客様にそのまま聴き取っていただかなければなりません。ですから、日本語の発音や発声も含めた表現方法は相当気を使い、研究していかなければならない部分だと思っております。もちろん西洋オペラのときも気を使ってはいますけれど、日本語のオペラでは、日本語がどういう風にお客様に伝わるかということがいちばん大事ですのでね。
ーなるほど、言葉への意識を切り替えるのですね。また、ストーリーも『ノルマ』が悲劇であるのに対して『ミスター・シンデレラ』は喜劇という違いもあります。悲劇と喜劇で、取り組むときに何か違いはありますか?
まずは、楽譜に書いてある、歌と芝居に求められている情報をしっかりと汲んで勉強するという点では同じですね。そこから稽古場でどういう化学反応が起きるかということなると、やはり喜劇のほうが予測できない部分があると思います。シリアスなオペラのほうは、ある程度脚本に忠実に気持ちをつくっていけば成り立つようになっているのですが、コメディーは本当に、場の空気や間の取り方、芝居の掛け合いによる役同士の触発というのが大きいので、稽古場で何が起きるか楽しみな部分もありますね。一方で、ただただ笑いを取るというのではなく、きちんと日本語を歌うこともそうですし、音程も取れているというのが大前提ですので、そういった点では喜劇のほうが難しさがあるかもしれません。
ーそうなのですね。牧野さんの演じる「伊集院ハナ」役はどんな役なのでしょうか?
伊集院ハナは、主役の伊集院正男の母親なんですが、まぁこんなにもかというほど、正男の妻の伊集院薫を憎んでいるんですね。いわゆる嫁姑です。居合術という剣術家の妻で、「伝統を継ぐ」というような意識が強く、プライドの高い、保守的な価値観の人物です。私とは違うタイプですね(笑)。息子が女性に変身してしまい、女性の格好で歩いているのを見て、ショックのあまり「狂乱の場(19世紀の西洋オペラで流行した、女性が嘆きのあまり狂乱しながら超絶技巧で歌うシーン)」のようになるんです(笑)。今の世の中、相当保守的な価値観じゃないとそのぐらいのことでは狂乱しないのではないかと思いますので(笑)、説得力のある役づくりをしなければな、と思っております。
ー役づくりが大変そうですね(笑)。共演者のみなさんや、演出の松本重孝氏、指揮の坂本和彦氏とはこれまでもご一緒されていますか?
この作品は、今まで藤原歌劇団でもオペラをご一緒してきた方や同世代の方が多いんです。同じ組の東城弥恵さんは大学の同級生なんですよ。それからダブルキャストで同じ伊集院ハナ役のきのしたひろこさんは、私が高校生のときにソルフェージュと楽典を習っていた先生(笑)。これ、偶然なんです!
ーそれは面白いご縁ですね!
本当に、ご縁ですよね!演出の松本重孝さんは、私のデビュー作の『カルメル会修道女の対話』や『セビリャの理髪師』『オリィ伯爵』でご一緒しました。色々とアイディアをお持ちで、稽古場でも「これ、やってみない?」とよくおっしゃるので、今回も楽しみですね。坂本先生は、私、実は20代の頃にミュージカルの舞台でご一緒しているんです!
ーミュージカルですか!『ミスター・シンデレラ』もミュージカルに近い作品ですよね。
そうなんですよ!限りなくミュージカルに近いオペラですね!しかも、昭和レトロ的な、懐かしい日本のミュージカルという雰囲気です。オーケストラもシンフォニック・ジャズのようだったり、タンゴ風の音楽が出てきたり、鹿児島が舞台なので、「おはら祭」で歌われる「おはら節」のモチーフが登場したり。私は「ねんねぐゎせ」という、奄美諸島の徳之島の子守唄を歌う場面があります。それから、モーツァルトのパロディーも出てきます。とにかく色々な音楽がパッチワークのように散りばめられているので、その点でも楽しんでいただけるのではないでしょうか。
ーとてもエキセントリックで楽しそうな作品ですね! こちらも、今から待ち遠しいです!
ナレーション、脚本家、ときどき「副交感神経デー」。文化活動の日々。
ー牧野さんは、オペラへご出演のかたわら、日曜日の12時から放送されているTOKYO FMの『バスタルジア』というラジオ番組で、ナレーションのお仕事もされていらっしゃいますね。歌なしの、声だけで語るお仕事というのは珍しいのではないですか?
そうなんです!パーティーの司会やコンサートのMCでしゃべることはありますが、ナレーションだけということは初めてですね。
ー声だけのお仕事はいかがですか?
これが、意外に楽しいんですよ(笑)!もっと緊張するかなと思ったのですが、薄暗くてコンパクトなスタジオで、ヘッドホンを付けて座ると、もう読む以外にないんですよね。すると、自分の集中力を引き出しやすくなるみたいで。グッと“世界に入り込む”という楽しさがあります。
ー先ほど『ノルマ』にしても『ミスター・シンデレラ』にしても、お話を伺っていて役の研究が早くて的確でいらっしゃることに驚きましたが、この番組のナレーションも「バスで旅をする私」という1人称で語られているので、世界に入り込み、ある人物になりきって表現する点でオペラでの活動が活かされていますね。
そうですね、普段オペラでやっていることが活かされていますね。どこで呼吸をするかというフレージングを考えるという点も共通していますし、母音をクリアに発音して日本語をしっかり伝えるということも日本オペラと一緒ですね。
ー逆にここはオペラと少し違う、と感じられる点はありますか?
声の高さや抑揚、テンポを自分で設定する点が最も違いますが、発音・発語の技術にも少し違いがあるかもしれません。私が普段歌うのはイタリア・オペラが多いので、あまり子音が強すぎるということはないかもしれませんが、それでもドイツ作品を歌う機会もありますし、同じように「s」とか「t」とかを強く発音してしまうと、ナレーションのマイクでは「リップノイズ」というものになってしまうんですね。難しいですよね。あと、「らりるれろ」が続いたりすると難しい、というような、アナウンサーの苦労のような部分が少し垣間見られますね(笑)。あと、練習ができず、その日スタジオ内のその場で読むというのが難しいですが、自由にイメージして自由にやらせていただけるという楽しさもあります。
ー自由の楽しさ、ですか。
はい。オペラは、稽古を重ねて細かく細かくつくり込んでいく作業なので。それはそれで喜びがあるのですが、自由につくれるという楽しさは新鮮です。
ーそうなのですね。本当に、幅広く活躍されているのですね。牧野さん、オフの日というのはあるのでしょうか?
オペラに出演するとお休みはほとんどないのですけど(笑)、たまにあるお休みのことを私は「副交感神経デー」と名付けているんです(笑)。1日全部、本当にリラックスをして、体のメンテナンスに当てるんです。
ー「副交感神経デー」というのは、面白いネーミングですね(笑)。
(笑)。歌の練習をずっとしていて、特に技術的に難しい曲なんかに取り組んでいますと、腰痛・肩こりであったり、足にも結構負担が来るんですよね。そういう疲れを、鍼灸治療に行って治していただくんです。普段は「今日はお腹の支えが入らない」とか「脱力できない」とか、主観的に自分の調子と向き合っているんですけど、体の表面に近い痛みや不調だけでなくて、内部の不調も客観的な目線で看ていただけるのがいいんですよね。
ー鍼灸ですか!リラックスできそうですね。他に何かご趣味はありますか?
仕事が趣味のようなものですけれどね(笑)。芝居を観に行ったりはしますね。
ーいわゆるストレート・プレイ(歌などの入らないオーソドックスな演劇)ですか?
はい、お芝居、好きですね。オペラの演出をされる方の、演劇作品を観に行ったりもします。上手な方がたくさんいらっしゃるので、オペラの役づくりの勉強になったりもしますね。あとは読書も好きです。移動が多いので、その間の時間で読みます。
ーお好きな作品はなんですか?
なんでも読みますけど、つい最近読んだのは『ダヴィンチ・コード』の著者ダン・ブラウンの作品を読みましたね。それから浅田次郎さんの作品も好きです。文章の流れも好きですし、あと、よく取材されてらっしゃいますよね!感心します!自分で脚本を書くこともあるので、その勉強にもなっています。
ー脚本も書かれるのですか?
そうなんです!お芝居のなかにオペラのアリアや重唱をはめ込んでいく、というオリジナル作品を、今のところ2本書いています。トリトン・アーツ・ネットワーク様からご依頼いただいて、オリジナルの芝居とコンサートを一緒に上演するというコンセプトでやったのです。大変でしたが、楽しかったですね!
ーオフの日も、文化的な活動をされていらっしゃるのですね!
確かにそうですね!脚本を書いているときは、半年間毎日アイディアを練ったり、取材したり、書き進めたりで結局休みがなかったです!ですから、オンとオフというのは、グラデーションのようになっているかもしれませんね(笑)。性に合っているんだと思います(笑)。
ー本当に合っていらっしゃるのですね。貴重なお話、ありがとうございました。
聞いてみタイム♪ 前回インタビューしました小川里美さんから、牧野さんへの質問レターをお預かりしています。今回、小川さんからはふたつの質問が届いています。
ー今まで演奏されたことのない演目(あるいはコンサートピース)で、これからなさりたいものはありますか?
そうですね…たくさんありますが、私はヴェルディが大好きなので、今パッと浮かんだのは『トロヴァトーレ』の「アズチェーナ」という役ですね!『仮面舞踏会』のときに「ウルリカ」という役をやらせていただきましたが、その役と“姉妹”といわれることもあるアズチェーナ。トラウマを背負って、その怨みを晴らすために生きているという、エキセントリックな人物像にすごく惹かれるものがあって、いつか取り組めたらいいなぁと思っています。あとは…何でしょうね。歌ったことがあるけどもう一度歌いたい、という役はたくさんあるんですけど(笑)。
ー『トロヴァトーレ』の「アズチェーナ」ですね!もう一度やりたい役は、例えばどんな役ですか?
そちらは逆にいっぱいありすぎて選びきれないんですが(笑)。ヴェルディのレクイエムは、もう一度歌いたいですね!あの曲は名曲ですし、メゾ・ソプラノにとっては、至福なんです(笑)。音楽的にもヴェルディのオペラの集大成である気がして、とても素晴らしい作品だと思います。あとは、ロッシーニの『オリィー伯爵』が好きでした!前回2014年の公演でシラグーザさんが完璧なテクニックで歌われて、そのうえにコメディーの演技が積み重なった、理想的なロッシーニの世界だったなという気がしていまして。またやってみたいです。
ーそれは、私もぜひ拝見したいですね!ありがとうございます。続いて、ふたつめの質問はいかがでしょう?
ー今となっては笑い話、というような、リハーサルや本番でのハプニングはありますか?
笑い話になっているようなハプニング!まだ笑い話になっていないものならあるんだけど(笑)!結構昔の話でもいいですか?
ーもちろんです!
モーツァルトの『フィガロの結婚』に出演して、小姓の「ケルビーノ」をやったときのことなのですが。途中で大勢の村娘たちに混ざって、女装をするシーンがあるでしょう?そのとき、ワンピースの下のズボンを脱ぎ忘れちゃったんですよ(笑)。それで、ワンピースの裾からズボンが覗いたまま舞台に出てしまったんですが、何かの拍子に気付いたんです。で、とっさに、あえてスカートの裾を持ち上げて、「あ、やっちゃった!」という顔で満面の笑みで笑ってみたら、それがかえってお客さんにウケたんです(笑)。
ー逆に功を奏したんですね!素晴らしいアドリブ力ですね!
そういうこともあるんだな、と思いました(笑)。本番はやり直しがきかないですから、ハプニングも利用してくしかない、という気持ちでしたね(笑)。でも、窓から飛び降りるというシーンに、舞台から客席に飛び降りるという演出がついていたんですが、そんなに高い段差でもないし稽古中は全然問題がなかったのに、本番では張り切りすぎてしまったみたいで。高く飛び上がりすぎて、着地でねんざしました。まさに、今になって笑えることですね(笑)。
ーそのあとが大変だったのですね(笑)。お話、ありがとうございました!
取材・まとめ 眞木 茜