奇想天外でコミカルな日本オペラ『ミスター・シンデレラ』に、前回と同じ「伊集院薫」役で出演するが、前回と違い今回は若い歌い手が多いので、自分が手本となれるようチームを引っ張っていきたい。何度も舞台を共にしている気心の知れた共演者が多いので、十分に稽古を重ね、笑って泣けて、最後にフッと、身近な人や当たり前に思えていた日々を大切に感じてもらえるような、説得力のある作品にしたい。オフの日は、ジムへ通ったり料理をしたり、宮古島へ行き海と空を感じたり。そうして培ったものを、また舞台へと活かしていく。
今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けする新コーナー「CiaOpera!」。第14弾は、10月14日・15日に、日本オペラ協会の今年度第一弾本公演『ミスター・シンデレラ』に「伊集院薫」役として出演される大貫裕子さんに、本プロダクションにかける思いや意気込み、共演者について、演出家の松本氏や指揮者の坂本氏について、オフの日の過ごし方などについてお話を伺いました。
実生活での実感を糧に、より説得力のある「伊集院薫」を。
ーではさっそく、10月14日、15日に上演されます日本オペラ協会本公演『ミスター・シンデレラ』について、色々とお話をうかがっていきたいと思います。大貫さんは、以前も今回と同じ「伊集院薫」役で『ミスター・シンデレラ』に出演されていましたが、まずそのとき印象深かったことなどをお聞かせいただけますか?
前回の思い出としては、まず下着姿で歌ったことがいちばん強烈に印象に残っています。それから、アンサンブルでたくさん動いたのですが、みんなで一斉にそれぞれ違うことを言ったり、違う動きをしたりしたことが印象的でした。また、とてもコミカルな作品で、私はそれまであまりコミカルな作品には出演していなかったので戸惑う部分があり、芝居的な要素もすごく多い作品なので、セリフを言ったりすることがとても難しかった印象があります。
ーお客様の反応は、いかがでしたか?
私自身、それまでいわゆるオーソドックスな「オペラ」に出演することが多かったので、セリフがあったりする点からも、「これまでのオペラとは全然違う雰囲気」という声が多かったです。
ー様々なオペラ作品や作曲家へのオマージュも散りばめられているようですね。
そうですね。例えば「結婚式」というと、ワーグナーの『タンホイザー』の結婚行進曲が流れてきたりと、各所に作曲家の伊藤康英さんの“遊び心”があると思います。
ー今回はニュープロダクションということで、前回とはこう変えてみよう、こう挑戦してみようというような、思いや意気込みはありますか?
はい。前回は鹿児島県との共同制作で、全3回公演のうち2回は、鹿児島の方や他のオペラ団体の方との混成チームでした。今回は日本オペラ協会の本公演なので、新たなチームで稽古を重ねていきたいですね。今回驚いたのは、キャストのなかで1番か2番に年上かもしれない、ということです。前回は逆に若い方だったので、世代の入れ替わりがあるんだなぁと感じるとともに、今までは引っ張っていってもらっていたけれど、今回は「なんとかしなくちゃな…」と思っています。
ー今回は、若い出演者が多いのですね!「引っ張っていく」というのがひとつのキーワードになりそうですね。
そうですね。前回、稽古場で先輩方の姿を見て「あ、こういう風にやるんだ」とすごく勉強になりました。実際、今の自分が若い人たちから見てどういう風に見えるかは分からないですけれど、やはり自分が以前感じたのと同じように感じてもらえるようにやっていきたい。そうやって先輩の姿を見て次へつないでいくというところが日本オペラ協会・藤原歌劇団の良き伝統だと思います。
ー一方、役づくりについてはいかがでしょう?前回と同じ「伊集院薫」役ですが、何か本プロダクションならではの変化はありますか?
前回は、伊集院薫という役と、年齢が同じぐらいでした。でも今は少し年上になってしまったので、「若々しく居たい」という歌詞を歌うときなどに、より説得力を持たせたいと思います(笑)。説得力という意味では、「研究者」とか「大学でのポジション」という要素がストーリーのなかに出てくるのですが、今実生活で大学に勤めていることもあり、それも活かしたいと思います。それから、私のなかで大きいのは、東日本大震災をきっかけに「これまで当たり前に感じていた事が、当たり前でなかった」ということをすごく感じるようになりました。例えば、家族が離ればなれになってしまったりだとか…。このオペラにも、最後に「ある朝」という終曲がありますが、ふとしたときにそばにいる人がすごく大切で、その人との生活を大事にしていきたいというメッセージが込められていて、私が感じていることとすごく重なるんです。前回は「当たり前すぎる」という気がしたことが今回は自分の中で実感を持って歌えるんじゃないかと思います。
ー日常生活で経験したり、気付いたことが、役に深みをもたらそうですね。この作品のおすすめポイントはどこでしょう?
本当に奇想天外なストーリーで、ドタバタコメディーですけど、最終的には「あ、そうだったよね、そばにいる人がいちばん大事だよね」と思えてホッとできるようなところですね。それで、オペラを観ながら笑ったり泣いたりしたあとに、フッと自分の大切な方と手をつなぎたくなるような気持ちで帰ってもらえればいいですね。
ー手をつなぎたくなるような、というのはロマンチックでいいですね!ご自身のシーンで、イチオシの見せ場はありますか?
冒頭で歌う薫のアリアがすごくミュージカルっぽい曲なんですね。で、前回はそんな風に感じなかったですが、今回は発声なんかも少し“ミュージカル風”にしてみようかな、と思っています。
ーいつも歌われている感じとは、少し違う歌い方を聴かせていただけるのですね!
はい。若い頃は高い声が楽に出たぶん、低い声が出にくかったのですが、年齢とともにだんだん低音を出しやすくなってきているので、そのへんをうまく活かして歌えたら、お客様へもより表現が伝えやすくなるのではないでしょうか。
ーなるほど。歌い方でも、今だからこそできることを活かすのですね。
見終わったら手をつなぎたくなる?笑って泣いて、家族の絆を感じる作品。
ー冒頭でもおっしゃっていましたが、この作品はセリフや芝居的な要素もかなりあるようですが、そうなると共演者の方との掛け合いが重要になってくるように思います。今回共演される方々は、みなさん以前もご一緒されたことはありますか?
ほぼ、ご一緒したことのある方ばかりですね。私の出る15日チームでいえば、垣内教授役の村松さんは今回が初めてですが、薫の夫の伊集院正男役の所谷さんはものすごくよく共演していますし、伊集院忠義役の田中さん、伊集院ハナ役の牧野さんとも共演したことがあります。
ーでは、掛け合いをつくっていくにも良さそうですね。
そうですね。牧野さんは歳も近いですし、面白い嫁と姑のシーンをつくれるんじゃないかと(笑)。それも見どころですね。所谷さんとは付き合いが長いし、信頼を寄せているので、楽しく役づくりが出来ます。
ー牧野さんは、前回お話を伺ったときに、「姑の伊集院ハナ役は、お嫁さんいびりがすごい」と話してくださいました(笑)。
そうなんです。でも薫も負けません。言い争いするシーンや、怒鳴りあうシーンもあります。でも最終的には、お舅さんの伊集院忠義に「あんた、何言ってんのさ!」という感じで、嫁姑で団結するんですよ。
ーお義母さんとも団結するのですか。夫との愛というだけでなく、家族としての絆が作品を通して描かれているのですね。演出家の松本重孝氏も、何度もお仕事はご一緒されていますか?松本さんの演出の魅力は、どんなところでしょう?
はい、何度もご一緒しています。
ちょっとしたところにも裏付けがあって、「なるほど」と思える部分がたくさんあるところですね。
ー裏付けがある、ですか。
そう、雰囲気だけで要求しないというか。「こういう理由だから、こういう演技をしてほしい」という。だから、演じているほうも観ているお客様にも、説得力が伝わりますよね。
ーやはり、説得力は大切ですよね。指揮者の坂本和彦さんとは、いかがですか?
坂本さんは、ものすごく長いお付き合いですし、一時期はほぼ一年中一緒にお仕事をしていました。今でも、それに近いものがあります。会わないときがないってぐらい(笑)。
ーそうですか!では、音楽づくりの相談もしやすいのではないですか?
坂本さんとは、あまり相談はしないです。相談しなくても、「あ、こうしてほしいのかな?」というのが分かるんです(笑)。向こうも、こちらがこうしたい、というのも分かっていただけますし。
ーよくお仕事されているだけに、かえって察し合えるのですね!それにしても、喜劇は悲劇よりも難しいと、みなさんおっしゃいますね。
そうですね!人を表現するって難しいです!同じセリフの言い方にしても、人を笑わせるための呼吸とか、間の取り方っていうのがあるでしょうし。それは松本重孝先生にみっちり仕込んでいただきたいです。
ー日本語を歌うときに気をつけている点はありますか?
やはり「日本語が聴き取れない」というのが、お客様にとっていちばんのストレスになると思っています。ですからいい声を聴かせるというよりは言葉を大事に伝えるということが、日本の作品をやる上では大事です。
ー今年度日本オペラ協会の総監督に就任された郡さんも、伝えることの大切さということをおっしゃっていました。
そう、この公演は郡さんが就任されてから、第一弾なのですよね!今までの日本オペラとは、またグッと違うものがお見せできると思います。
ー楽しみにしています!
ジム、料理、宮古島。オフの日にする、好きなこと。
ー大貫さんは、オフの日はどんな風に過ごされているのでしょうか?
私、ジムに通うのが大好きなんです。時間があるとジムに行っていますね。
ージムですか!
スポーツが好きというのとは違うかもしれませんダンスのクラスに出たり、マシンを使って走ったり、プールで泳いだりします。あと、ホットヨガをやったり。
ーダンスは、どんなダンスですか?
「ズンバ」です。大好きなんですよ!
ー「ズンバ」ですか!どんなダンスなのですか?
ラテン系のいろいろな音楽に合わせて踊るんですが、ちゃんと踊るっていうよりは、先生の動きを真似して楽しく踊ればいいんです。すごく楽しくて、発散できるんですよ。同じクラスのズンバ仲間もいて、一緒にステージに出たりしています(笑)。
ーズンバもステージがあるのですか!
はい、港区にあるメルパルクの大ホールで踊りました(笑)。
ー他には、どんなことをされますか?
沖縄が大好きで、時間ができると行って、シュノーケルをつけて海に潜っています。
ー本島ですか?
宮古島です。もう、大好きなんです。
海と空が半端じゃなくきれいなんです。
ーきれいそうですね!毎年行かれているんですか?
そうですね、毎年行ってます。沖縄の梅雨が明ける6月ごろに必ず、主人と行きます。人にはあまり会わず、海を見てボーッとしていますね。でも、日焼け止めは頑張って塗りまくります(笑)。
ーいいですね!お料理はされますか?得意メニューはなどありますか?
します、大好きです!
一般的なものは結構なんでも作るんですが…ごはんを土鍋で炊いたり、お味噌汁の出汁を必ずとったり…和食や、日本の洋食が多いですね。ぬか漬けもつくったりしますし。アジフライとか、コロッケとか。イタリアンなんかもつくりますね。
ーお好きなだけあって、結構お料理されるのですね。
でも、ぬか漬けなんかは簡単ですよ(笑)。あ、餃子は結構得意です。栃木県出身なので。羽根つき餃子を、100個ぐらい一気につくるんですよ。
ー100個もつくられるのですか!ジムやお料理、宮古島といろいろ挙がりましたが、実際、お休みというのは結構あるのでしょうか?
ないですね(笑)。なんだかんだと忙しいです。だから、宮古島への旅行なんかは「ここで行く!」って決めてしまいます。
ーそれが大事ですね!そうしたオフでの充電が、また舞台へと活かされてくるのでしょうね。
そうですね。なんでジムに行き始めたかというと、以前演出家の岩田達宗さんとお仕事をさせていただいた際に「この方とお仕事していくうえで、私は体を鍛え直さないとやっていけない」と感じたんです。それで行き始めてみたら、結構ハマったんですよね。
ーそうなのですか!動きがハードだったのですか?
はい、肉体的に求められる要求が高くて、それにすぐ反応できる必要があるなと。単純なアクションの激しさというより、「可動域」と言ったらいいでしょうか。私という人間の、動ける範囲を広げるというイメージですね。
ー可動域ですか。実際にジムを続けていることが、活かされているという実感はありますか?
あります。可動域も広がりましたし、スタミナが持つようになったなと感じていて、それはジムのお陰かなと思います。
ー今回の『ミスター・シンデレラ』も、スタミナが必要そうですね!
すごく必要だと思います!最初から最後まで!
ーでは、パワフルな『ミスター・シンデレラ』を、楽しみにしています。ありがとうございます。
聞いてみタイム♪ 前回インタビューした牧野 真由美さんから、大貫さんへの質問レターをお預かりしています。
ー例えば「こんな作品に出演したい」「こんな人と共演してみたい」「このような人に聴いてほしい」等々、オペラ歌手としての「夢」をお聞かせいただけますか?
オペラ歌手としての「夢」ですか。そうですね…以前、ザルツブルグ音楽祭へ行ったときに観た『フィガロの結婚』の演出がすごく面白くて。それこそ、肉体を駆使した演出でした。例えば、男性のバレエダンサーを肩に乗せてアリアを歌うシーンがありました。そんな、音楽的な要素以外で、肉体的限界を求められる、というぐらいの演出作品に私も出てみたいと思います。
ー面白そうですね!「こんな人に聴いてほしい」ということについては、いかがですか?
今度、初めてズンバ仲間が『ミスター・シンデレラ』を観に来てくれるんです。そういう、日頃オペラに触れたことのないような方に来ていただいて、「なんだ、観てみたらすごく面白い!次も観てみたい!」と思ってほしいです。その方は今のところ「絶対寝る!」と言っていますが、寝かさず、泣かせよう!と思っています(笑)。
ーいい意味で、度肝を抜かれてほしいですね!
そうですね!今まで一度もオペラを観たことないという方、まだまだいっぱいいると思うんですが、そんな方々に観ていただき、面白いと思っていただき、そしてオペラファンが増えてほしいです。
ーそうなることを、願っています。ありがとうございました。
取材・まとめ 眞木 茜