アーティスト インタビュー

砂川 涼子

次々と新境地への意欲を燃やす砂川氏に、その想いを聞く。

Vol.4

『ドン・パスクワーレ』のノリーナ、『蝶々夫人』『トスカ』のタイトルロール。年齢を重ね、経験を積んだ今だからこそ選択できた、新境地へのチャレンジ。「やれる。」「やりたい。」というパッションが湧きあがる。作品の切り替えのカギは、まず音楽。自分のベースとなる音楽をしっかり持ちながら、いい演奏をし、いい演技をし、共演の方々に一緒に仕事をしてよかったと感じてほしい。アルベルト・ゼッダ氏のスペシャルコンサートには、真摯に楽しく臨みたい。音楽教師になりたかった沖縄の少女は、大学で歌に目覚め、大学院で舞台に目覚め、「もっと歌が上手くなりたい!」と強く願ったときからオペラ歌手への道がひらけた。今は、丁寧で自然体な日常を心がけながら、声に、心に、磨きをかけたい。

今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けする新コーナー「CiaOpera!」。第四弾は、『ドン・パスクワーレ』『蝶々夫人』『トスカ』「アルベルト・ゼッダ スペシャルコンサート」など次々とステージを控える砂川涼子氏に、出演作への想いや知られざる来歴・日常について伺いました。

今だからこそ、やってみたい。新役挑戦への情熱。

ーまずは、びわ湖ホールでの『ドン・パスクワーレ』のノリーナ役についてお話を伺いたいと思います。これまで砂川さんが演じてこられたのは、悲劇に登場する薄幸のヒロインといった役が多かったと思いますが、今回は一転、ノリーナというテンションの高い役ですね。お客様のなかにも意外に思われる方も多いと思いますが、ご自身ではどう捉えていらっしゃいますか?

そうですね、私にこれまで歌ってきた役のイメージを持ってくださっているお客様は、「えっ」と意外に思われる方も多いと思います。私自身、お話をいただいた時に「私でよろしいんですか?」と思いましたし。もちろん、ベルカント・オペラ(声の美しさを意識した声楽技巧。ドニゼッティの作品も含まれる)というひとつのくくりの中で考えれば、私も学生のときから意識しながら勉強してきたつもりなんです。比較的若いうちからいつでも、その時その時いただいた役に対してベースにベルカントのテクニックを意識してやってきたつもりですが、年齢も重ね、経験も少し重ねたこのタイミングでこの役に出会えるということは想像していなかったし、びっくりしています。歌えないことはないでしょうけれど、これまでデビューから歌ってきた役が悲しいお話が多く、病気で亡くなったり自害したりという女性が多かったので…すべてにおいて初心者です。(笑)

ーまさに「新境地」ですね。今までの役と、具体的な違いは感じてらっしゃいますか?

ドニゼッティ、ベッリーニ、ロッシーニの作品が比較的軽やかな声の方が歌う役だとしたら、中でもこの役は音楽のなかに少ししっかりした部分もあったりするので、もちろんオプションとして高い音をたくさん出すこともありますが、そんなに自分の声とかけ離れてはいないかな、と思います。ただ大きな違いは、これまで歌ってきた役とノリーナの役と、楽譜をひらいたときの景色がまったく違うんです。ノリーナだけじゃなく、音符の数も多いし、言葉の数も多くて、目に入って来る景色が“黒い”んですよね。(笑)今まで歌っている役は、音を伸ばしたり、オーケストラと同じ旋律を奏でたりしているので、どちらかというと“白い”。(笑)見ていてチカチカするような、目から入って来る刺激を感じています。(笑)一刻も早く暗譜して、「今この高い音を出してる」というようなことをあまり考えずに、ちゃんと音楽を感じながら歌えるようにならないと、というところです。

ー「楽譜の景色が違う」というのは面白いですね!見てるとチカチカ、クラクラする楽譜というのは、まるでせわしないドラマの内容やノリーナの性格そのものみたいですね。

そうなんですよ。例えば練習中にちょっとつまずいたとき、これまでの役だったら、テンションもゆっくり「あ、ごめんなさい。」みたいな感じだったのが、この役だと「ごめんなさーい!」になって、自分自身もそのテンポに乗るんです。

ー素の自分も変えてしまうんですね!今回共演される方々は、こういった作品はご経験されているのでしょうか?

牧野さんは7月に日生劇場でも歌ってらっしゃいますし、須藤さんもイタリアで歌ったことがあるとおっしゃってました。エルネスト役のシラグーザさんももちろん得意の役でしょうし。楽しくなりそうなのは目に見えているので、素晴らしい皆さんと私も楽しめるように頑張らないとなぁ、という感じです。

ー指揮者の沼尻さんとも、砂川さんは何度も共演されているのですね。沼尻さんの印象をお話しいただけますか?

沼尻さんは、歌手の呼吸をすごく感じてくださるし、演出についてもしっかり把握されて音楽を作って下さいます。演出家にも質問したり、とても熱心な方です。それに言葉数はそんなに多くないんですが、面白い方です。冗談を言ったりして、オペラを指揮するのを楽しんでいらっしゃいます。お約束として確認し合わなければいけないような部分はありますが、信頼のおける素晴らしいマエストロだと思います。またお会いできるのが楽しみです。

ー合流するのが楽しみですね。話は移りますが、今回の『ドン・パスクワーレ』のノリーナもチャレンジな部分がある役ということですが、今後砂川さんは『蝶々夫人』と『トスカ』のタイトルロールを歌われると伺っています。この2役も、オペラとして通して歌われるのは初めてとのことで、これらの役に対するお気持ちをお聞かせいただけますか?

まず作品について考えると、声の面、表現の面と、どれひとつ取ってもとても大変なことが待っているだろうなとは思います。もちろん、「大変だからやめる」ということも、ひとつの選択肢としてあるのかもしれないですよね。声に負担がかかるから、とか、表現が難しいかもしれない、とか。もう少し前の私だったら、そういった頭でいて受けなかったかもしれないです。ただ「何歳になったからこの役をやる」というわけでもないですけど、自分がこれまで歌ってきた中で、声の変化みたいなことを感じたんですね。お客様もそれを感じる場合もありますけど、歌っている本人はすごく敏感に感じるところで。「もしかしたら出来るかな」ではなく、「やってみたい!」と思える時期が来たかなと思ったんです。私の背中を押してくれたのは、今もご指導頂いている林康子先生が「自信があるならやりなさい。」とおっしゃったこと。「自信はないんですけど…」と私が言うと「じゃあやめればいいのよ。自信があるなら挑戦したらいい、声があるうちにね。」とおっしゃって。準備ができるなら挑戦してみなさい、という先生の言葉に心を動かされました。『トスカ』はオーディションがあったので、オーディションを受けるか受けないかもギリギリまで悩んでいて、結果は分からないながら万が一やらせていただくことになったときのことをすごく真剣に考えたんです。で、自信があるかないか、といわれるとない方に近いんですけど、「この役をやってみたい!」っていう、やりがいを感じるという気持ちがとても強かったんですね。ただきれいな声が出て演出家や指揮者に言われることをサラッとやるだけじゃなくて、その作品に対して自分がどれだけやりがいを持って参加できるかや、それと声も、これまでの自分の声と比べると、以前は大変だった部分が充実してきたり、表現にしてもほんの少しやりたいことが出来るようになったかなということを年々感じられるようになってきて、また公演自体が少し先だったので、準備する時間もある、と思ったんです。それで思い切ってオーディションを受けました。指揮者と演出家の方たちも素晴らしい方々なので、絶対この作品で、この方たちと一緒に仕事をしたいと思いました。

「蝶々さん」に関しても同じことなんですが、この役を歌うことで声を壊してしまうなんて話も聞いていますし、恐怖ばかりがイメージとしてありました。林先生は海外で数えきれないぐらい「蝶々さん」を歌われて、並行してベルカント・オペラを歌われていたそうです。ベルカントのテクニックで歌ったから私は喉を壊さないで済んだ、とおっしゃって。だからやっぱり、テクニックを持ってしっかりと、大人になってから勉強するんじゃちょっと遅いから、若くて体力のあるうちに勉強だけはしてもいいと思う、ということをおっしゃって。先生のような一流の方と私を一緒にするなんておこがましいですけれど、先生のおっしゃったことを少し参考にさせていただいて、「この役だからこういう風に声を変える」ということではなく、自分の持っている声がその役を歌うのにすごくかけ離れているわけでなければ、解釈や表現の面でアプローチもできていくし、私なりの役がつくっていけるかなと思ったんです。さっきも話しましたが、これがまだ駆け出しで、舞台の経験もそんなにないときだったら、「私にはまだまだです。」とお断りしていましたが、今回は演奏会形式ということ、「一歩踏み出したい」「頑張ってみたい」と思う時期にこれらの役のお話が重なったのかな、と思います。

ーそれにしても、このように色々な役にチャレンジされるとなると、切り替えも必要になってきますよね。

そうですね。私の希望としては、今まで歌ってきたような役のイメージで私というものがあるんだとしたら、そのイメージをベースにしたいし、「あの人のこの役が聴きたい」と言ってもらえるのはとても嬉しいので、この先も何年も歌い続けられるようにしたいというのもありながらも、強い女性の役や、ノリーナのような可愛らしい役など、キャラクターとして色々なものが出来るようになればいいなということは、私だけでなく歌い手としてみんな思っていると思うんですよね。ただ巡り会わなければ機会もないので、このような機会はとても嬉しいです。

ー実際役の切り替えをするときに、具体的にされることはありますか?

音楽がそれぞれ違うから、その音楽に入るとおのずとその人物を演じなきゃ いけないという環境になるんです。明るい音楽になれば、自然にそこに自分が向かって行く。まずはやっぱり音楽だと思います。いい歌を歌えていれば、そこに演技も自然と乗っかるというか。演技が先だと、声にも無理が生じると思います。舞台は見た目から入る印象は大きいんですけども、一番は耳から入って来る声の印象だと思うんですね。そこで演出家の方と歌い手や指揮者とでディスカッションが起こるのは当然のことで、演出家が「こんな見え方や演技がほしい」というときに、じゃあ歌う方としてはどんな呼吸でやっていかなきゃいけないかとか、そういうやりとりは大事になってくるんです。なので、切り替えというよりは、まず音楽をしっかりやっているつもりなんです。

ーなるほど、それぞれ取り組んでいる音楽を自分のものにするということが、「切り替え」ということなんですね。

多忙なディーバが愛するのは、小さな喜びと自然体。

ーそれにしても引く手あまたのご活躍ですが、ご自身は小さい頃からオペラ歌手を目指してこられたのですか?

元々は音楽の先生になりたかったんですよ。沖縄県で生まれて、クラシックではないですが音楽はいつも近くにあって。祖父も父もすごく音楽が好きで、歌ったり楽器を演奏したりしていたので、私も音楽が好きで。歌うことも好きだし、ピアノも遊びながら弾いたり、中高では吹奏楽部でコントラバスをやり、どちらかというと歌よりそっちが楽しかったりもして。それをひっくるめて、音楽の先生が楽しいだろうな、と。音楽大学に行って、卒業して先生になって、将来は沖縄に帰るかなとそんな感じだったんですね。家族もそのぐらいに思っていたと思うんです。大学に入って、先生になりたいということはずっと思っていたんですけど、歌が上手になりたいという思いも年々大きくなっていって一生懸命勉強はしたんですね。そして4年生になって教育実習に行ったときに、「あれ、もしかして“先生”は私にあんまり向かないかも?」と思ったんです。生徒たちって元気じゃないですか。まず1年生を担任としてひとクラスを任され、音楽は1年生から3年生まで全部任されて2週間ぐらい授業をやってみて、「違うかも…」と思って。

2012年 藤原歌劇団「フィガロの結婚」伯爵夫人役

「でも仕事としてやれることっていったら音楽ぐらいしかないしなぁ。」と思って、歌もすごく好きだし、歌の勉強をしながらもう少し考えたいと親にお願いして大学院まで行かせてもらって。そしたら、学校でオペラ公演があったんですね、ちゃんと外国人の演出家も来て、指揮者もいて、一般のお客様も観れるという。それが『フィガロの結婚』で、初めてのオペラ出演だったんですけど、舞台に立ってお客様から拍手をいただけたっていう経験が忘れられなくて。好きな歌でお客様が喜んでくださって、拍手をいただけて、自分にとっていいことしかないという気持ちになって、「歌をもうちょっと勉強したい!」と強く思ったんですね。それで勉強を続けて、大学院を出る頃にコンクールを受けたら賞をいただく幸運に恵まれたりもして、それでもやっぱり「オペラ歌手になるぞ!」というのではなくて、好きな歌をもっともっと上手になりたいという気持ちで動いてきた気がします。勉強を続けるうちに「歌いませんか?」というお話がきて、新国立歌劇場の小劇場でデビューして歌ったら藤原歌劇団に入ることになって、その都度素晴らしい方たちとの出会いがあったり幸運が重なったりで。「歌を極めていきたい」と思ったときから道がひらけていったような気がします。歌ったり演じたりというのは最も自分から遠いことだと思っていたので、今こうして舞台で歌ってお芝居もしてというのは家族もびっくりしますし、私のことをよく知っている人たちも本当にびっくりしていますね。

ー『フィガロの結婚』が転機だったのですね。そのあとイタリアのミラノへ留学されたのですか?

私は江副記念財団と五島記念財団というところから奨学金をいただいて行ったんですけど、本当に私は恵まれていて、(日本での)舞台の仕事が決まっていたので、イタリアで勉強して日本へ帰って来るということが何年か続いたんですね。なので、行ってレッスン室で勉強したことを日本の舞台に乗せられるという素晴らしい経験をさせていただいたんです。勉強しながらじっくり向こうに居るということも大事なことですし、そういうことを考えた時期もあったんですが、舞台に立てるということもそんなにないことですし、舞台で学ぶことの方が大きかったりもしたので、ありがたい経験だったなと思います。

ーずっとミラノに行かれていたんですか?

基本はミラノでしたけど、ローマにも行ったり、途中から先生がパリでの仕事がメインになったので、到着するのはミラノですけど先生を追いかけてパリへ行ったりもしました。

ー何か印象に残っている出来事はありますか?

パリは、イタリアと全然違う雰囲気で、お洒落だし街の人たちもとても素敵な方が多いし。イタリアも素敵な方は多いですけど。それで、パリで先生にレッスンしてもらうために、劇場に入れてもらったんですね。セキュリティーのこともあるので楽屋口に先生が迎えにきてくれて、普段有名な歌手たちが使うレッスン室に通してもらったときはちょっとゾクゾクしました。楽屋口で出待ちしている方もいたし、有名な歌手の方もいっぱい出入りしてたと思うんですけど、今思えば私も全然無知というか、「わぁ〜」なんて舞い上がりながら行ったので、サインのひとつでももらっておけばよかったなんて思うんですけどね。(笑)今でもそのときの楽屋パスを持っているんです。「1回しか使えないからね。」なんて言われたんですけど。(笑)あれは素敵な経験でしたね。

ー砂川さんは、オフの日はどう過ごされているんですか?

もう、申し訳ないぐらい普通なんですよ。(笑)どうしても毎日何かとバタバタしていて、ついつい日々に追われてしまうというか。どこかにゆっくり遊びに行ったり、息抜きしたりってことがほぼないんですよね。だからこそ、ちょっとしたことでもより丁寧に過ごしたい気持ちがあって、心がけるようにはしているんです。例えば、お茶をおいしく淹れるとかいうちょっとしたことなんですけど、ふとしたときに出来ることを丁寧にやることが息抜きというか、気持ちの切り替えというか。あと、私は香りものが大好きなんです。ロールオンタイプのオイルなんかをちょっと手首やこめかみにつけたり、アロマオイルを炊いたり…ほんのちょっとしたことですけど、自分自身はリフレッシュして日々過ごしています。

ーちょっとしたことに自分の幸せを見つけていけるというのは、大事ですよね。

本当に、まとまった時間で「よし今日はお買い物に行くぞ!」とか「おいしいもの食べに行くぞ!」というのがほとんどないので、決まったところじゃなく、用事などで行った先々でおいしいもの見つけたり、洋服も試着して良かったらパッと買うとかそんな感じなんですけど。でも、そういうの、自分でも楽しんでるのかな。苦痛には感じてない気がします。

ーそもそも、お休みってあるんでしょうか?

自分の演奏の仕事がない日はもちろんありますが、私自身に用事がなくても家族の用事で動いたり、家の事をしたり、大学のレッスンがあったり、なんだかんだバタバタしているんです…でもみんなそうですよね。

ゼッダ氏の気力に真摯に、楽しく音楽と向き合う。

ー今年12月にはアルベルト・ゼッダ氏の米寿を祝うスペシャルコンサートにもご出演なさいますね。そちらのお話も伺ってもよろしいですか?

米寿、すごいですよね!楽しみです。2部構成で、私は『スターバト・マーテル』の方に出るんですが、とてもドラマティックだし、共演する歌手の方も素晴らしいですし。ゼッダさんとはオペラで何回かご一緒させていただいて、あまりに巨匠すぎていつも勝手にドキドキしちゃうんですが、こういう素晴らしい方と恐れ多くも一緒に舞台に立たせていただける機会に感謝しながら、しっかりといい演奏ができるように準備したいです。マエストロのお祝いとして(のコンサート)ではありますけど、マエストロもまた厳しく音楽に臨まれると思うので、できるだけお祝いモードが勝つように、あまり緊張しないように楽しみながらやりたいと。(笑)本当に待ち遠しいです!

ーそうですか。ところで、この『スターバト・マーテル』について、チラシなどにもある程度解説はありますが、この記事を読まれる方へ向けて簡単にご説明をいただけますか?

そうですね、ひとつは、ソロで成り立っている曲が次々ときて、合唱も入っていたりして、オペラではないですけどオペラを聴いているぐらいの迫力はあります。ソロだけじゃなくて二重唱ですとかソリスト4人の四重唱もあるので、音楽だけでもお腹が一杯になれます。ロッシーニの、喜劇で「わーい、楽しい!」みたいなイメージとは違ってしっかり重厚な音楽で、ロッシーニの音楽(の幅)をすごく楽しめる内容になっているかなと思います。オーケストラも東京フィルさんですし。だから、「この曲知らないから、聴く前に予習しなきゃいけないかな」ということではなくて、音楽そのもので満足していただけることは間違いないので、ぜひお越しいただきたいですね。難しく考えずに。

ー確かに、クラシックは難しいというイメージを持たれがちですが、そうではない作品もたくさんありますよね。

はい。一番はマエストロが見られるというのは大きいと思います。指揮棒を振っている後ろ姿からも表情が伝わるし。何といってもマエストロの音楽が素晴らしいので、いらして頂いたお客様は、マエストロのお姿に釘付けになっちゃうと思いますよ。(笑)

ーもちろん、ゼッダさんと共演されている砂川さんを拝見できるということも楽しみですけど。(笑)ゼッダさんは、ロッシーニ音楽のスペシャリストとして有名ですよね。

もちろんロッシーニで有名ですけど、モーツァルトの曲も指揮してらっしゃるんですよ。そのあとヴェルディもやってらっしゃいましたし。私は『フィガロの結婚』を振られたときにご一緒して。マエストロのお人柄溢れるモーツァルトでした。もちろん厳しさというのはあるんですけど、それは「音楽を真剣にやりなさいよ。」「ひと時も気を抜いちゃダメだよ、こんなに素敵な音楽を歌っているんだから。」っていうことなんです。ロッシーニは旋律的にコロコロ転がる曲が多くて難しさもあったんですが、モーツァルトでそういう教えを経験出来たことがとても新鮮だったんですよね。モーツァルトはロッシーニの音楽ほど技巧的じゃなかったりもしますが、マエストロがロッシーニ音楽のときにおっしゃるようなことがすごく活かされていて、音楽もすごく流れる。無駄にゆったり歌うと「それじゃあ流れが停まっちゃうんだよ!」という、そういうことがすごく新鮮で、さすがだなぁって。とってもお元気だし。朝からすごくお元気で、私たちがポーッとしていると「コラー!」なんて怒られたりして。(笑)だから、今回もまた気を引き締めて頑張りたいです。(笑)ぜひ聴きにいらしてください。

聞いてみタイム♪ 前回インタビューさせていただいた向野さんから質問のお手紙を預かっています。

ー超ご多忙の中で、美貌と美声を保つ方法はなんですか?

これ、向野さんにそっくりそのままお聞きしたいですね。(笑)
私たちは、オペラの舞台になるとヘアメイクさんが入るので、その都度楽しいお話を交えながら「この化粧品がいい」とか「おすすめはありますか?」なんて雑談するんですけど、最近は特に、言われたものに対して「そっかー」と聞き流すんじゃなくて、それを実践しようっていう強い気持ちがあって。(笑)さすがにプロフェッショナルのヘアメイクさんたちは情報が本当にすごくて、アドバイスいただいたものは素直に実践するようにしてるんです。(笑)それだけじゃなくて、内面も磨きなさいよってこともあるんですけど。(笑)あとは、眠れることって大事だなって最近は本当に思います。睡眠がやっぱりすべてなんだなぁって。本番の日や本番が近い日は頭が興奮して眠れなかったりして。1日ぐらいだったら寝れなくてもなんとか乗り越えることはできるんですけど、その積み重ねはお肌にも声にも良くないでしょうし、眠いなと思ったら寝るようにしています。あとは、食べ過ぎも…どうしてもお菓子とかが大好きなので食べちゃうんですけど、お肌が荒れちゃったら反省して「やめよう」って気持ちだけは持つとか。(笑)

声に関しては、練習はわりと頑張る方なので毎日やるんですけど、ただただ声を出してダラダラと長くやるんじゃなくて、質のいい、明日につながるような練習を心がけます。やっぱり年々体の変化というか、勢いで頑張っちゃうみたいなことが厳しくなるので、疲れとも上手に付き合っていかなきゃいけなくて。なるべくいい疲れに変えていくんです。そういった稽古の心がまえも大事ですし、だからといってあんまり神経質に、喉を過保護にしすぎるとすぐ「風邪かしら?」みたいになってしまうので、できるだけ「これを食べたら喉に悪いから」とか「これは喉にいいから」とか決めごとをつくらずに、普通の生活を心がけています。もちろん人の多いところで騒ぐとか、そういうことはしないようにしますし喉のケアはしますけど、それは歌っている方はみなさん当たり前のことでしょうし。大事にはしますけど、あまり特別なことはしないほうがいいかな?と思いますね。…すみません、なんだか普通な答えで。(笑)

取材・まとめ 眞木 茜

©︎Yoshinobu Fukaya

砂川 涼子

ソプラノ/Soprano

藤原歌劇団 正団員 日本オペラ協会 正会員

出身:沖縄県

沖縄県出身。武蔵野音楽大学声楽学科主席卒業、同大学大学院修了。第34回日伊声楽コンコルソ第1位、第69回日本音楽コンクール第1位及び特別賞受賞。第12回リッカルド・ザンドナイ国際声楽コンクールでザンドナイ賞受賞。第16回五島記念文化賞・オペラ新人賞受賞。
これまでに藤原歌劇団、新国立劇場、びわ湖ホール、愛知県芸術劇場ほかで「トゥーランドット」のリュー、「ドン・ジョヴァンニ」ツェルリーナ、「カルメン」ミカエラ、「魔笛」パミーナ、「ホフマン物語」アントニア、「ウェルテル」ソフィー、「夜叉ヶ池」百合、「ランスへの旅」コリンナ、「ラ・ボエーム」ミミ、「フィガロの結婚」伯爵夫人、「椿姫」ヴィオレッタ、「死の都」マリー/マリエッタ、「オテロ」デズデモナ等多数の出演。特に「ラ・ボエーム」ミミは歌唱・容姿ともに“理想のミミ”と絶賛され得意役としている。 その他、NHK-BS「映画音楽に乾杯!」、FM名曲リサイタルなどの音楽番組に終演。高い技術と美しい舞台姿で支持されている人気ソプラノ。藤原歌劇団団員。

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