アーティスト インタビュー

高橋 薫子・向野 由美子・笛田 博昭

オペラ歌手の素顔とは。『カプレーティ家とモンテッキ家』出演の3名に聞く。

Vol.3

9月に上演のオペラ『カプレーティ家とモンテッキ家』に同じチームとして出演する高橋薫子(ジュリエッタ)、向野由美子(ロメオ)、笛田博昭(テバルド)は、自らの歌を追求し、役を考察し、お互いに切磋琢磨しあいながら作品をつくりあげる。それは、まさに誰もがイメージするオペラ歌手の“オン“の姿。けれど一歩稽古場を出るや、オフの過ごし方は三者三様。頭にいつも音楽が流れている?年に1度はイタリアに行く?家には音を持ち込まない?温泉が好き?乗り物が嫌い?金魚を育てて大会に出る?また、舞台への考え方やスタンスも実は様々で、それぞれに悩みあり、苦しみあり。声に直接的な影響を及ぼすメンタル・コントロールの試行錯誤を乗り越えて、劇場で自分を解き放つ。

今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けする新コーナー「CiaOpera!」。第三弾は、9月に上演のオペラ『カプレーティ家とモンテッキ家』に出演する高橋薫子氏、向野由美子氏、笛田博昭氏の3名に、作品への想いのみならず、オフの日の過ごし方などについて貴重なお話を伺いました。

カギは、役づくり。シェイクスピアとはひと味違う「ロメオとジュリエット」。

ー今日は、9月に上演される『カプレーティ家とモンテッキ家』に出演のお三方にお越し頂きました。ジュリエッタ役を務める高橋薫子さん、ロメオ役の向野由美子さん、テバルド役の笛田博昭さんです。さっそくですが、この演目、知らない人がタイトルを見ると「なんだろう?」という感じを受けそうですが、いわゆる『ロメオとジュリエット』なんですよね。あまりにも世界的な恋愛悲劇ですし、何よりシェイクスピアが演劇の脚本として書き起したことが有名ですね。映画や舞台、もちろん音楽作品もたくさん存在するわけですが、このベッリーニ作曲のオペラならではの特長があれば教えてください。

この作品は、リブレット(台本)自体はいわゆるシェイクスピアではなくて、もともと古くからあった伝承みたいな話をロマーニという人が台本にしたので、お話は確かに『ロメオとジュリエット』なんだけど、それだけではなくて「家」と「家」の話というか。

そっちの方が強いかもしれないですね。

そうなんですよ。「家」と「家」の確執みたいなものの中に、ロメオとジュリエットの話がついてきているという感じですね。私、グノー(作曲のオペラ)の『ロメオとジュリエット』をやったこともあって、その作品は台本自体もシェイクスピアのものだったので、いわゆる”バルコニーシーン”とかロマンチックなところもあったんですけど。(ベッリーニの作品は)そういうのがあまりなくて、そういうの(バルコニーシーン)を通り越したところの、家同士の確執のなかの人物、というところがありますね。

ー確かに、かなり話が進んだところから始まりますね。「2人が出会って…」というより、すでに恋人同士という。

まさに、タイトルに表れているという気がします。「カプレーティ家」と「モンテッキ家」という。

その通りだなぁ(笑)。僕も、さっき話に出たグノーの作品を1回やったことがあるんですよ。あれとはずいぶん雰囲気が違うな、という気がします。

ジュリエッタを演じていても、「恋愛もの」っていう気があまりしなくて(笑)。

ーなるほど、よく知られたお話とは少しイメージが違うんですね。そんな『カプレーティ家とモンテッキ家』、本番まであと1ヶ月弱ですが、稽古の様子はどうですか?

(このインタビューは立ち稽古開始2日後に行われました。)

今は立ち稽古(実際に立ち動き、演技などをつけていく稽古)に入って、ある程度の動きはほぼ最後までついたんですが、歌い手たちに投げられている部分がすごく多いです。自由にもできるけど、役をふくらませる時間を自分のなかでつくらないと。音楽自体もスタイリッシュなものだから、ヴェリズモ(音楽による感情表現が重視され、重厚なオーケストレーションが特徴のオペラのジャンル)みたいに音楽自体がお話の世界にすごく連れて行ってくれるというわけでもないので、自分たちの中からどれだけファンタジーを出せるかっていうことがすごく大事かと思いますけど、まだ…

まだ探り中です。

ー役づくりをされることが結構重要ということでしょうか?

つくるっていうのか、だんだん役にはまっていくのか。すごく真面目に事前に自分の中で考えてからやる人もいるし、稽古の流れの中からだんだん生まれてくる人もいるんじゃないかと思います。

ーシェイクスピア作品にイメージが引っ張られている部分もあるかもしれませんが、ロメオやジュリエットに至っては14歳とか15歳ですよね。みなさんの役づくりは、どちらの方法ですか?

年齢のギャップっていうのは、正直そもそも埋められないものなので(笑)。もちろん、今の年齢がそのまま出ないようにしようとは思いますけど、稽古をやっていくうちに、音楽とか周りの環境とか色々なことが助けてくれて、だんだんと役の年齢に近いエネルギーみたいなもの、それからロメオは性別も違いますけど、そういうものが出てくるので、最初から「16歳!」っていう気負いはほぼ無いです。もう「しょうがない!」という感じです。

ージュリエッタの場合はどうですか?

私もそうですね。基本的に精神年齢は若いほうなので(笑)、肉体年齢との闘いはもちろんあるんだけれども、精神的なことですごく苦労したっていうのは…(フンパーディングのオペラ)『ヘンゼルとグレーテル』をやったときのように3歳、4歳とか、あれはやっぱり肉体的にもしんどかったですけど。娘役っていうのは、おそらく女王役とかよりも、もしかしたら楽かもしれない。あとは、本当にそれらしく見えるかどうかっていうフィジカルな問題は次の段階で、精神的な気負いはそんなに無いですね。

ーテバルドはいかがですか?

もちろん何かしらのイメージとかは持ってるんだけど、家にこもって「僕はこういう役でいこう」とかそういうのは無いかな。やっぱり現場に行ってみると色々な周りの状況もあるから、そういう中でつくり上げていくっていうか。特に僕は今回、ベルカント(美声・声量・装飾・表現力など、高度な声楽的技術を求められる歌唱法)ものが初めてだからね。

ー普段はどんな作品に取り組まれることが多いのですか?

そうですね、イタリアだけどもう少し新しいもの、ベッリーニよりも時代的に今に近いものですね。ヴェリズモものという、プッチーニの作品とか、ヴェルディの後期の作品が多いんですよね。そうすると、さっき薫子さんが言われたみたいにオーケストラが音楽でドラマをつくってくれて、その中でちゃんと歌えばいいというか。今作が難しいのは、オーケストラがシンプルだから、その中で歌い手の技量が本当に試される。言葉ははっきり歌うんだけどレガート(流れるように)にしなきゃいけないし、強弱もあるし、ちゃんと表現するところはしないといけない。それが、今回やってみて、ヴェリズモ・オペラとすごく違うところだと思っています。

種目が違う感じですよね。

そうそう、そういう感じ!

ー今回、みなさん同じ組(9月10日キャスト)になってみて、お互いの印象などはいかがですか?

僕は、おふたりが優しくて心が広いから、すごくやりやすいです。

笛田さんみたいな人がいると安心するよね。

そうそう、動じない人というか。

ーすでに信頼感バッチリという感じですね!役としては、お互いに関わりはありますか?もちろんロメオとジュリエッタはあると思いますが。

ジュリエッタとテバルドはほとんどないですけど、ロメオとテバルドは結構ありますね。重唱もあるし。

ーロメオとテバルド、恋のライバルとしてお互いの掛け合いの感じはいかがですか?

笛田さんのテバルドだと、本当にジュリエッタがさらわれてしまいそうな気がしてしまうんです。客観的に見ていて、「このテバルドだと、ジュリエッタなびいちゃいそうだな、かっこいい〜!」って思って、見ちゃうんです。

強そうだしね(笑)。

そう(笑)。なかなか普段そういうことはないんですが。「これ、(ジュリエッタは)テバルドのところには行かないでしょ」っていうのがほとんどなんですが、笛田さんだと「これはやばい、本当にテバルドに気持ちが揺らぐんじゃないか?」と思うので、これからの私のテーマとしては、本気でジュリエッタを取られないようにしないといけないな、というところです!

ー役として火がついてますね!お互いに引き出しあって、信頼関係を持ちながら稽古が進んでいそうですね。演出家の方や指揮者の方とはいかがですか?

僕は、本当に初めてだから分からないところが多いんです。マエストロの山下一史さんも初めての方だし。『蝶々夫人』のとき松本重孝さんはご一緒しましたけど。重孝さんの演出のやり方って、さっき薫子さんもおっしゃいましたけど、歌手の側がつくってつくって、ちゃんとして行かないと成り立たないんです。

埋まらないんですよね。「ここから出て、こうする」みたいな段取りは与えてくれるんですけど。

いつもああいうスタンスなんですか?

そうですね。

私、昨日の稽古で「ここから出て、そこにはける。はい、やってみよう」って言われたとき、思わず「はい!」って返事しちゃったんです。うっかり言っちゃうと危険なんです(笑)。自分でちゃんと流れを分かって、すべて埋めていかないと、ラインしか与えられないので。

ーそれが、最初に高橋さんが言われていた「自分で考える時間が必要になってくる」ということなんですね。

それが重孝さんの狙いなんでしょうね。

音楽稽古の時にいらして「こういう感じ」っていうアドバイスを言ってくれたりはしますが。でも、動きとして特別奇抜なことをするってことはないじゃないですか。役としても、突飛なことが起こるわけでもないし。だから、音楽自体でどこまで役に迫れるかで本当に変わってくると思うんです。やっぱり音楽に隙があったら、いくらきれいに動いたって決まらないので、そこのところを(これから)なんとかせねばな、という感じですね。

ー稽古は、もうひとチーム(9月11日組)と一緒にやっているのですか?

はい、一緒にやっています。来週から組分けになりますけどね。

ー同じ役の人から、影響を受けることはありますか?

やっぱり「いい動きしてるな」と思ったら参考にしたりしますね。

そういうやり方もいいなぁ、なんて思ったりするよね。

ただ、あんまりそのまま取り入れるのもね(笑)。ちょっとアレンジしたりはするかも(笑)。

ーなるほど。これから稽古はどんどん追い込みに入るのですね。どんな舞台になるのか楽しみです。

それぞれ、意外で個性的。オペラ歌手の休み方。

ーところで稽古や本番などオンの時間と、オフの時間の切り替えなどは何かされてらっしゃいますか?

基本的に、家にはできるだけ音楽を持ち込まないようにしているんです。うちに帰ったらもう、ネコと遊ぶ、と。それが癒しなので(笑)。やらなきゃいけないってときは、楽譜持って喫茶店入っちゃったり、練習室入っちゃったり。

家では全然やらないの?

家じゃやらないですね。家では、まずやれる環境にないってことも大きいんだけど。

声を出しちゃいけないとか?

そう。最初はそれがすごく不便で「あり得ない!」と思っていたけど、考えようによっては「あ、こうやってパンッと切っちゃったほうが、精神的に楽な部分もあるな」ということに気が付いてきて。だから、何かやるべきことがあった場合は、家まで持ち越さないように、できるだけ解決して帰る、解決できなかったときはもうそこでシャットアウトして、寝る!という感じですね。

ー意外ですね!高橋さんはいかがですか?

そうですね。今やっているものだったり、次のものだったり。肉体的には休みの日でも、楽譜を持って出かけるということはないけど、どこかに引っ掛かっているという感じです。

分かります、すごく分かります。

ー笛田さんも同じですか?

同じです。僕は完全にオフなときはオフにしちゃいますけど、でも完全にオフに出来る時ってあんまりないから。本当にゴッソリと休みがある、みたいな時は至福の時。歌はもちろん好きだけど、本当のオフというのはたまらないですね!だけどオフであっても、必ず頭の中のどこかにあるんですよね。

あるよね。次の曲の暗譜とかね。

そう。だから薫子さんが「楽譜持って遊びに行くわけじゃないけど」って言ってたけど、僕は本当に楽譜を持って遊びに行ったりするの。でも、絶対に見ないの。

海外に行く時とか、持っては行くけど開けないってことあるよね。

そう、僕は性格的にもほとんど見ることなんかないんだけど、持ってるっていうだけでなんか安心できる、っていうのがあるんだよね。

ーちなみにそういったオフの日は、出掛ける派ですか?インドア派ですか?

私は温泉にダーッと行っちゃいます。

ー温泉、いいですね!

1、2日しか休みが無かったら、私はうちにこもってゴロゴロしてる方が好きですけど、1週間ぐらいの休みになると、温泉に行ったり、山に行ったり、海に行ったりしますね。あとは、年間で2週間ぐらいはなんとか休みをとってイタリア行く、というのを自分の中で毎年のノルマとしてやろうと思っています。今年は行けてないですけど。

ー海外はやっぱりイタリアが多いですか?

イタリアですね。

ー笛田さんもイタリアですか?

うーん、(行くとしたら)イタリアだけど、僕は乗り物が苦手で。休みの日に新幹線とか飛行機とかで移動するのがすごく嫌なのね。例えばすごく大きい車に乗って、自分は寝てればその場に着くっていうならいいけど、まずそんなことないでしょ。車にしても自分が運転するし。移動があんまり好きじゃないから、1日の休みのときは家かな。そのときにもよるけど。でも、僕は子供が2人いるから、家にいたら遊ばないといけなくて。もちろん可愛いし、気持ち的にリフレッシュもできるんだけど、やっぱり疲れるんだよね(笑)。だから、僕は「らんちゅう」っていう金魚を飼っていて。趣味でやってるんだけど、日曜日になると大会が開かれたりするの。

ー美しさを競う大会ですか?

簡単に言えば美しさを競うんだけど、その美しさっていうのは、きれいに泳ぐかどうか。柄とかはあんまり関係ないっていう。

意外!

「らんちゅう」ってどういう字を書くの?

蘭鋳。ちょっと難しい字なんですよ。

元は中国?

そうそう、たぶん中国。

ー面白いですね!みなさん、意外な一面をお持ちですね(笑)。クラシック以外の音楽を聴くことはありますか?

そもそもあんまり音楽は…なんかもう「休めたい」っていう感じがあるから、テレビもつけない。音、聴きたくない。聴くとしてもリラクゼーション音楽みたいな、そんなのしか私は聴かないです。

分かる分かる。僕もほとんど聴かないなぁ。

エネルギーを蓄えたいので、発散したくないんですよね。

ーなるほど。歌は、エネルギーを使いますものね

歌手とアスリートは近い?!大切なのは、メンタルです。

ーオペラに出演するのと、コンサートに出るのとではどちらが大変ですか?

どっちも違う大変さだなぁ。

僕はやっぱり、コンサートの方が大変だな。オペラっていうのは1役でいいんだよね、演じるのが。その中にポンッと入れば、いかに歌う量が多かったり時間が長かったりしても、それだけを歌えばいいから。リサイタルとかになると、ひとりで十何曲も歌わなきゃいけなくて、全部作品が違うものをやったりする。それは精神的にもキツいし、僕はその方が苦手です。

私もオペラの方が断然好きです。稽古も、みんなと恥かきながらやるじゃないですか。だから、本番のときは自由になれる気がするんだけど、リサイタルとかはひとりでコツコツやらなきゃいけないのがすごくつらい(笑)!相手はピアニストだけでしょ(笑)。

ピアニストは助けてはくれますけど、でも自分との闘いだよね。

私はどっちも甲乙つけがたく大変かな。リサイタルはめったにやらないんですが、おふたりがおっしゃるように、ひとりで任された時間があると色んなことやらなきゃいけないから大変は大変。ただピアニストと自分だけで、しかも歌っているのは私だけだから、何かあったとしても責任は全部自分だけ。「私が悪かったんです、申し訳ございません。」で済むけど、オペラの場合は連帯責任になりかねないから…

そんなこと考えたことなかったなぁ(笑)。

ひとりで負わなくていいと思うとラッキーじゃない(笑)?

そう考えればいいんですけどね(笑)。そんなことを思うこともあって、どっちも私は大変です。でも、オペラの現場はやっぱり楽しいですよ。人がいっぱいいるから。

ー出演者の方も、スタッフの方もいますしね。

そう、共同作業はすごく好きなんですよ。

ー人前に出るというのは楽しいですか?

私は、”高橋薫子”として人前に出るのはすごく嫌なんだけど、オペラは何かの役として出ればいいから「私は、私じゃないし」って(笑)。どこかに”自分”もいるけど、表に出ているのは別人というイメージ。だから私は、余計にオペラのほうが楽に感じるのかもしれません。

ーなるほど。今回の演目をやっていて「ここ、楽しい!」という場面はありますか?

まだない(笑)!

1ミリもないなぁ(笑)!

いわゆる”楽しい”シーンっていうのはないんですよね。ずっと苦悩してるというか。

大抵は、悲劇のなかにもたまには喜劇っぽいところがあったりするけど、これは無いね!

役として”楽しい”というのではないけど、自分に役を「やれやれ」って演じさせている自分っていうのが楽しいかもしれない。

僕は、楽しくないな(笑)。いや、さっきも言った通り、リサイタルとオペラどっちがいいかって言ったらそれはオペラのほうがいいし、オペラも楽しくないとか、つまんなくてやってるわけじゃないんだけど、楽しいってところまで行けないんだよね。「楽しもう!」とはいつも思うんだけど、それよりも不安とかが勝っちゃいます。

えー!意外!!

ー意外ですね!

そう?ビクビクしながらやってるよ。でも、稽古場のときはビクビクしてないよ!いざ本番に出たときに、ね。いくらたくさん稽古やっていても…それはやっぱり、アクート(高音)に対する恐怖だと思う。「今日は出るかな」と。「出ないわけない」とも思ってるんだけど、分からないじゃないですか(笑)。だから、その恐怖心が絶対に拭えないの。

なんだか可愛くなってきた(笑)

(笑)

羨ましい!

私なんか、本番が一番楽しい!

稽古してる間はずっとビクビクしてるんですよ!

私も、早く劇場に入ってほしいといつも思う!稽古場って、至近距離で人がいっぱいいるじゃないですか。何時間もオーディションを受けてるみたいで。劇場に行くと、それが見えなくなるの(笑)。

すごく解放される気分。

そうそう、その解放感がたまらない!

いいなぁ!もちろんその解放感はあるんだけど、それよりもやっぱりアクートへの恐怖心が拭えない。「どうしよう、あの決めるところで声がひっくり返ったりしたら」とか、そればっかり!テノールはそういう人、多いと思うよ。

多いよね!「なんでかな?」といつも思うんだけど。ソプラノもアクート決めなきゃいけないってことはあるけど、「決まらなくてもいいや」って、どっかで(笑)。

そう思えたらいいけど…完璧主義じゃないけど、人に良く見せたいのかな。

みんなそう、みんなそう(笑)。

私も若い頃は完璧主義だったけどね、でも完璧に行かないじゃない?

やっぱり、練習で出来ていること、例えばいいアクートが決まるとすると、それを本番でも求めちゃうんですよね。それがいけないな、と最近気付いたんですよ。だから常に、今日初めてそれをやるんだと思ってやろう、と考えたんです。良かった時と比べたりするから、「今日はちょっと良くない」というふうになる訳じゃないですか。初めてだったら比べられないでしょ?…って言い聞かせるんですよ、自分に。そんな方法を最近はとっています。

いい話聞いたなぁ!

それは、なんか分かる!完璧に、と思っていると自分をどんどん萎縮させちゃうので。私は「自己ベスト更新」みたいなイメージなんだけど。100点は当然目指すんだけど、以前50点だったものが55点になったら、5点分褒めよう、みたいな。90点いったとしても「あと10点も足りない」とも思うけど、でも50点だった学生の頃から比べたら90点ってすごいじゃないですか。そっちを褒めたほうが、メンタルの健康にはいいなとすごく思います。

ある程度歌えてきたら、もうメンタルしかないよね!

メンタルがダメだと、出来るものも出来なくなっちゃうよね。

あ、イチローも同じこと言ってた!「もうメンタルしかないです」って。

ーアスリートみたいですね。

近いと思う。舞台に出て、一発勝負じゃない?その場で見せなきゃいけないから。そういう意味で、一緒だと思います。

私たちは、楽器役とプレイヤー役をひとつの体でやらなくちゃいけないから、メンタルで楽器を損なっちゃうんですよね。

「歌やってると楽でいいね!」なんて言われるけど。楽器持ち運ばなくていいからって。でも大変なんですよ!

ーメンタルって、目に見えないですしね。

そう。でも声って、メンタルがものすごく出るんです。緊張すると声が震える、とかっていうのはまさにそれですよ。

ー確かにそうですね。いいお話をありがとうございます!最後に、オペラを観に来るお客様やこの記事を読まれるかたへ向けてメッセージをいただけますか?

とにかく歌い手がすごく試される作品だから(笑)。

そうね(笑)。稽古の間にメンタルを鍛えて、乗り越えて舞台に出る予定ですので、そんな私たちをぜひ観てください!

観に来てください!

取材・まとめ 眞木 茜

高橋 薫子

ソプラノ/Soprano

藤原歌劇団 正団員

出身:香川県

国立音楽大学卒業、同大学大学院修了。文化庁オペラ研修所第7期修了。1991〜93年五島記念文化財団奨学生として渡伊。第21回イタリア声楽コンコルソでシエナ大賞等、多数の賞を受賞。藤原歌劇団には、90年「ドン・ジョヴァンニ」のゼルリーナでデビューを飾り、渡伊。帰国後「ルチア」で急遽タイトルロールの代役を歌い絶賛を博し、95年「愛の妙薬」のアディーナを好演、同役は得意役として文化庁青少年芸術劇場公演でも出演。以降「イル・カンピエッロ」「ロメオとジュリエット」「ランスへの旅」「ラ・ボエーム」「リゴレット」「どろぼうかささぎ」「タンクレーディ」「セビリャの理髪師」「夢遊病の女」「仮面舞踏会」等次々と大役で絶賛を博している。  新国立劇場には、「魔笛」「ドン・ジョヴァンニ」「ヘンゼルとグレーテル」等で出演。第2回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。平成8年度村松賞受賞。第26回モービル音楽賞洋楽部門奨励賞受賞。平成27年度香川県文化芸術選奨受賞。藤原歌劇団団員。国立音楽大学非常勤講師。洗足学園音楽大学講師。香川県出身。

向野 由美子

メッゾ・ソプラノ/Mezzo Soprano

藤原歌劇団 正団員 日本オペラ協会 正会員

出身:東京都

東京芸術大学卒業、同大学大学院修了。三林輝夫、大国和子の各氏に師事。 1998年東京オペラ・プロデュース公演「ベアトリースとベネディクト」のユルジュールでオペラデビュー。2000年には新国立劇場小劇場オペラ・シリーズに「オペラの稽古」伯爵夫人でデビュー。その他、「コジ・ファン・トゥッテ」「カルメン」「アンドレア・シェニエ」「ナブッコ」等に出演。藤原歌劇団には、05年「ラ・チェネレントラ」のティーズベでデビュー後、「ランスへの旅」「リゴレット」「蝶々夫人」「ラ・トラヴィアータ」「フィガロの結婚」「オリィ伯爵」「ファルスタッフ」など多数出演し、いずれも好評を得ている。また、文化庁本物の舞台芸術体験事業「カルメン」にタイトルロールで出演。その他、日生劇場オペラ「ヘンゼルとグレーテル」でヘンゼルを演じ大絶賛を博し、同劇場「アイナダマール」ロルカに出演。また、「第九」「マタイ受難曲」「メサイア」等多くのソリストを務め、コンサートでも活躍している。藤原歌劇団団員。都留文科大学非常勤講師。東京都出身。

笛田 博昭

テノール/Tenor

藤原歌劇団 正団員

出身:新潟県

名古屋芸術大学卒業、同大学大学院修了。2009年渡伊。2011年文化庁新進芸術家海外研修員として再渡伊。第37回イタリア声楽コンコルソ・イタリア大使杯受賞。第9回マダム・バタフライ世界コンクール及び第50回日伊声楽コンコルソ第1位。 藤原歌劇団には「ラ・ボエーム」ロドルフォでデビュー以降、「ラ・ジョコンダ」エンツォ、「仮面舞踏会」リッカルド、「蝶々夫人」ピンカートン、「トスカ」カヴァラドッシ、「カプレーティ家とモンテッキ家」テバルド、「カルメン」ドン・ホセ、「ノルマ」ポッリオーネ、「道化師」カニオと出演を重ねている。20年2月には「リゴレット」のマントヴァ公爵で出演予定。 その他フェッラーラ市立劇場「イル・トロヴァトーレ」、日中国交正常化35周年記念・第9回上海国際芸術祭公演「蝶々夫人」や「椿姫」「トスカ」「マクベス」「ドン・カルロ」「運命の力」など各地で多数のオペラに出演。 また、NHK-FM「名曲リサイタル」、NHKニューイヤーオペラコンサート、K-BALLET COMPANYや東京フィルハーモニー交響楽団の「第九」など各種コンサートに出演。今最も注目されているテノールの一人で、今後の活躍に期待が高まっている。第20回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。湯沢町特別観光大使。藤原歌劇団団員。新潟県出身。

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