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CiaOpera!

CiaOpera!(チャオペラ)Vol.12 小川里美
Vol.12 -
小川里美

「ソプラノのなかで最も難しい」ノルマ役に、
小川里美が挑む。

「ノルマ」という役が「最も難しい」といわれる理由は、歌唱の技術的な難しさと、複雑な心境変化を表現しなければならない役どころとしての難しさ、ふたつを持ち合わせている点だと思う。共演者や指揮者、演出家の方々と共に、役を深めあいながら挑んでいきたい。マリエッラ・デヴィーア氏と同じプロダクションに参加することも、とても光栄に思う。オンとオフの切り替えははっきりしていて、稽古期間はできれば他のことは考えたくない。オフの日は、とにかく家に人が集まり、食べ、飲み、語り合う。体が資本のオペラ歌手として、健康に気を使いながら日々を過ごしている。

今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けする新コーナー「CiaOpera!」。第12弾は、7月2日に、ベッリーニのオペラ『ノルマ』に主役のノルマ役で出演される小川里美さんに、難役へ挑む今の心境や役づくりについて、共演者やダブルキャストのマリエッラ・デヴィーア氏について、休日の過ごし方についてお話を伺いました。

ノルマが心に抱える苦悩や葛藤を、いかに美しく、リアルに表現するか。

−今回はまず、7月2日に出演される『ノルマ』についてのお話をうかがいたいと思います。この作品で小川さんが歌われる「ノルマ」という役は、よく「ソプラノのなかで最も難しい」といわれますね。どういったところが、そのように「最も難しい」と言われるのでしょうか?

役の難しさというものには大きくふたつあると思っていて、ひとつは「技術的に難しい」ということ、もうひとつは「役どころとして難しい」ということですね。「ノルマ」という役はその両方が重なってしまっている点が、そのようにいわれるゆえんだと思います。

小川里美

−「技術的」というのは、具体的にどのようなことでしょうか?

そうですね、簡単に言うと例えば音をたくさん歌わなければいけない点です。それから『ノルマ』という作品は、ベッリーニが作曲したベルカント・オペラの最高峰だと思うのですが、その「ベルカント唱法」できちんと歌う、ということがとても作品のハードルを高めていると思うんです。

−「ノルマ」を演じられるのは初めてですか?

はい、初役です。

−この役を演じることについて、どうお感じになっていますか?

正直、私をこの役に選んでいただけたということにはすごく驚きました。お話をいただいたのは1年ぐらい前で、オペラをやっていると1年というのは結構あっという間なんです。稽古が始まるまでにやっておかなければならないこともたくさんあるし、特に「ノルマ」という役が大きいということや、イメージの強い役ということもあるので、自分にこの役が本当にきちんと出来るんだろうかということをすごく考えました。

−いろいろと悩まれたのですね。「やろう」と決心されたきっかけは、何かあったのですか?

いちばん大きなきっかけは、歌の先生ですね。私には日本で教わっている先生とイタリアでの先生がいるのですが、どちらの方とも「私にできるでしょうか」と相談し、じっくり話してみました。そうしたら、「できると思うし、やってみてもいいと思う」というご判断だったんです。先生方がそうおっしゃるのなら、多少の不安は乗り越えられるのではないかと思いました。

−先生のお言葉で、ご自身に可能性を見出したのですね。

そうですね。それから、ひとつのオペラの役に取り組むときにいつも感じることで、音楽的な勉強にはもちろんなるのですが、「役が自分を育ててくれる」という部分もすごくあると思うんです。以前マクベス夫人を演じたことがあり、この役も事前に準備をたくさんしなければならない点が今回のノルマと似ているようにも思うのですが、結果的にマクベス夫人役の勉強を通して自分が成長でき、自信をつけたという部分もすごくありました。今回も、どのくらい自分が成長できるか楽しみです。

小川里美

−役づくりは、いつもどのように行っているのですか?

まず稽古の初日までに自分で勉強して、役をつくって持っていくのですけど、最近ではその役が言っている内容や、歌っている歌詞がどういうハーモニーのなかにあるかとか、台詞と音楽から役づくりをして稽古場に持っていくんです。それでも、演出家の先生がおっしゃることって自分にはない引き出しというか、「この言葉をそういう視点で考えたことなかったな!」という意外性を見つけられるんです。だから、稽古場で自分が考えてきた役を深められたり、広げられたりできるのがすごく楽しいです。

−ハーモニーから役の性格を読み取るというのは、興味深いですね。

例えば、本当に悲しくて絶望しているのに、その気持ちを長調の明るいメロディーで歌うという歌があったとすると、「普通に考えたら短調になりそうなのに、どうしてこの音楽になるんだろう?」って、すごく考えさせられるんです。究極に悲しいとき、人は悲しいメロディーを歌わないで逆にシンプルになってしまうのかもしれない、と。他にも、「わかりました。」とひとこと言うのに、ものすごく違和感のある和音がついていたら、たぶんその人は本心から「わかりました。」とは言っていないんですよね。人って、口に出していることがすべて本心ではないじゃないですか。そういう人間の心理、「この人どう思っているのかな?」ということを、音楽から探ることはあります。面白いですよね。今回の『ノルマ』にもそういった場面はあります。

−「ノルマ」は、巫女という聖職でありながら敵国に属する恋人がいて、しかも子どもまでもうけている。さらに、恋人は別の女性に心が移っているという過酷な状況で、感情を抑えたり吐き出したり、かなりコントロールの必要な人物ですね。

複雑な人物ですよね。考えてみたんですけど、ソプラノの役って、物語のなかで罪を犯す人はいるけど、登場したときから自分が犯した罪について悩んでいる人ってあんまりいないなぁと。最初から罪について悩み、隠さなければいけない事実があるという、ものすごいジレンマを抱え続けている。そのうえ、自分が信頼していた人がライバルになってしまい、裏切られたと感じる。さらに自分が愛していた人は、元々敵対する国の人であるうえに、自分を捨てようとしている。その根底には、自分は巫女である、人を好きになってはいけない、という思いもある。内面に、二重、三重の苦しみを抱えている人だと思うんですね。

−「役どころとしての難しさ」という意味が分かってきた気がします。

「裏切られる」ということひとつとっても、ライバルなんてやっつけてしまえば楽になるのかもしれないけど、本当にそんなことをしていいのかという葛藤があるし、子どもに対しても、自分が罪を犯して生まれた子どもだからこの子も生まれながらにして罪を持っていて、自分がどうにかしなければならない、でもできない。そういう葛藤を経ての、最後の数十分間のどんでん返しはものすごいものがあります。そこにどれだけリアリティーを出せるかというのも、難しさのひとつだと思います。

−この「ノルマ」という女性、ご自身に似ている部分はあると思いますか?

どうでしょうね(笑)。この歳になると、三角関係になることってなかなかないじゃないですか(笑)。芯の強さ、みたいな部分でいえば、私も白黒つけたいタイプだし、ものごとをはっきり言うほうだと思うし、似ているのかもしれないです。でも、この状況になったら私はどうするんだろう、とは思います(笑)。

小川里美
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